2004
02
株式会社サンレー

代表取締役社長

佐久間 庸和

前代未聞のイノベーション、

 サンレーグランドホテル誕生!

 ついにサンレーグランドホテルおよび北九州紫雲閣が2月5日にオープンしました。10日にオープンした小倉伊勢丹とともに北九州の明るい話題として注目度も高く、オープン当日には「朝日」「毎日」「読売」の三大全国紙に堂々の全面広告を出しましたが、その反響の大きさはすさまじいものがありました。
 なぜホテルや葬祭会館のオープンなど珍しくないのにそれほど大きな反響を呼んだのかというと、それはサンレーグランドホテルも北九州紫雲閣もまったく前例のない新しい価値をもった存在だからです。小倉そごうの倒産後、三年以上の時間を経て開店した小倉伊勢丹にいくら話題性があろうとも、しょせん旧態依然とした一百貨店にすぎません。い
くら九州発上陸のブランドをそろえようが、そんなものは本質的な「新しさ」ではありません。サンレーグランドホテル、北九州紫雲閣こそは本質的な意味において新しい施設であるといえます。
 サンレーグランドホテルは前代未聞のビジネスモデルです。戦後の日本でいえば、日本初のコンビニエンスストアであるセブンイレブンが東京・晴海に誕生したときや、クロネコヤマトの宅急便やセコムの警備保障スタート、そして東京ディズニーランドのオープン、それらに並ぶかそれ以上に価値のある出来事、それがサンレーグランドホテルのオープンです。なぜならコンビニや宅急便ができて日本人の生活は便利になりました。ホームセキュリティのおかげで安全と安心を得ました。非日常のディズニーランドによって本物のレジャーというものに触れ、豊かな楽しい時間を送れるようになりました。
 しかし、サンレーグランドホテルの意義はさらに大きいのです。前述の企業のいずれもサービス業のイノベーションにおける成功例として、NHK「プロジェクトX」に取り上げられていますが、私は四半世紀前に日本最初の総合葬祭会館としてオープンした小倉紫雲閣とサンレーグランドホテルこそ「プロジェクトX」の主役にふさわしいと内心思っています。先日、サンレーグランドホテルに関してNHK「経済レポート」から取材を受けましたが、これも「プロジェクトX」に向けての第一歩だと思っています。
 なぜコンビニ、宅配便、セキュリティ、テーマパークといった史上に残るビジネスモデルをサンレーグランドホテルは超越しているのか?それは「便利」「安全・安心」「非日常」といった価値ももちろん素晴らしいですが、「老い」や「死」の意味をとらえなおしてポジティブに発信していくことは、人間の幸せの根っこ、幸福の根幹に関わっているからです。
 私はかつて幸福論といわれるジャンルの本を読みまくったことがありますが、あらためて思ったのは、人類がこれまでに行ってきたさまざまな営み、政治・経済・法律・科学・医学・哲学・文学・芸術・宗教といった偉大な営みが何のために生まれ、発展してきたかというと、それはすべて「人間を幸福にするため」という一点に集約されることでした。
 そして、人間の幸福について考えて考えて考え抜いたとき、その根底には「死」という問題が厳然として在ることを思い知るのです。そこで私がどうしても気になったのが、日本では、人が亡くなったときに「不幸があった」と人々が言い合うことでした。
 私たちは「死」を未来として生きている存在です。もし死が不幸な出来事だとしたら、死ぬための存在である私たちの人生そのものも、不幸ということになります。私はマゾヒストではありませんから、不幸な人生など送りたくありません。幸福な人生を送りたいと思っています。最初から「不幸」という結末の見えている負け戦になど参加したくないのです。
 死が不幸なら、それに近づく過程に他ならない「老い」も不幸ということになります。ですから、人が亡くなって「不幸があった」などと馬鹿なことを言っているあいだは、日本人の幸福などはじめからありえないのです!
 近代工業社会はひたすら「若さ」と「生」を謳歌し、讃美してきました。しかし高齢化社会では「老い」と「死」を直視して、前向きにとらえていかなければなりません。今こそ幸福な「老い」と「死」のデザインが求められているのであり、その舞台こそが産江r-グランドホテルなのです。日本は世界でもっとも高齢化が進行している国ですが、その中でも北九州市はもっとも高齢化が進行している政令指定都市です。つまり人口百万人以上の都市でいえば北九州市は世界一の超高齢化都市であると言えます。
 その多くの高齢者が生活する北九州市において「老い」が不幸だとしたらどうなるでしょうか?北九州市は不幸な人間がもっとも多くいる世界一不幸な街になります。しかし逆に、「老い」が幸福だとしたら、世界一幸福な街になるのです。世界一幸福な街か、世界一不幸な街。まさに、天国が地獄かです。「老い」のとらえかたひとつでこんなにも変わるのであれば、私たちは天国を選ぶしか道はありません。ですから、「老い」と「死」に価値をおくサンレーグランドホテルが北九州市に誕生したことの意味はとてつもなく大きいのです。なぜなら、高齢化が進む日本の諸都市、世界各国の都市にとって北九州市とは未来の姿だからです!
 サンレーグランドホテルが大いなる老福都市としての「グランドシティ」のモデルになるとは、そういった人類史的意味をもっているのです。
 サンレーグランドホテルこそは、従来のホテル、老人施設、葬祭会館といった従来のビジネスモデルを組みかえ革新する真のイノベーションです。このイノベーションという考え方は、もともと経済学者のヨゼフ・シュムペーターが唱えたものでしたが、広く世界中に広めたのがかのピーター・ドラッカーでした。私は世界最高の経営学者とされるドラッカーをこよなく敬愛しており、サンレー経営も実はドラッカー理論どおりに行っています。それぞれ具体的に例をあげていきましょう。
 まずドラッカーは「目標管理」というコンセプトの提唱者ですが、当社は平成9年から目標管理制度を導入し、私自ら目標管理本部長になったこともあります。  次にGEのジャック・ウェルチが実行したことで知られる「選択と集中」。当社も警備・旅行・生協など不採算事業からすべて撤退し、本業に専念。またシェア1位の営業地域のみ残して、あとの地域からは撤退。茨城などは利益が出ていたにもかかわらず、シェア3位だったということで将来性を考えて撤退しました。
 ドラッカーの代名詞ともいえる「知識化」もサンレーに導入されました。言わずと知れた業界初のISO9001取得であり、日本一の資格保有数を目指す一級葬祭ディレクター戦略がそれです。当社ではナレッジ・マネジメントが行われ、業界でも屈指のラーニング・オーガニゼーション(学習する組織)となっています。
「顧客の創造」。本業である互助会の募集はもちろん、オークパイン・ダイヤモンドクラブ(ODC)の設立や老人会との契約などがあります。
「本質からの事業の捉え直し」。私は冠婚葬祭業の本質についてじっくりと考え抜き、冠婚事業を製造業(夫婦工場)、葬祭事業を交通業(魂のターミナル)と位置づけました。また互助会の真の商品とは「人の道」であることを訴えています。
「仕事に価値を与える」。冠婚葬祭業とは哲学産業であり、芸術産業であり、宗教産業である。この仕事ほど価値のある素晴らしい仕事はないと、社長就任以来アピールしてきました。
「言葉による社員鼓舞」。自分で言うのもおこがましい気がしますが、「陽はまた昇る」や「空に太陽、地上にサンレー」などのキャッチフレーズがこれに当たるでしょう。
「明確なビジョン」。労働集約型産業から知識集約型産業へ、さらには精神集約型産業へ。これに尽きると思います。 「ミッション重視」。21世紀のミッション・ステートメントとして「S2M」を発表しました。大ミッションとして「人間尊重」、小ミッションとして「冠婚葬祭を通じて良い人間関係づくりのお手伝いをする」とはっきりと打ち出しています。
 以上のような点で、ドラッカーの教えを私なりに実践しているわけです。ドラッカーこそは私の心の師ともいえる大きな存在であり、私は彼の全著書を精読しています。そのことを昨年末に東京で開催されたダイヤモンド社主催のドラッカー・セミナーで発言したところ、その後ドラッカーの日本の代理人から連絡がありました。なんでも私のように彼の全著書を読んで実際の経営に活かしている人間は世界でも珍しく、ドラッカー本人も大変喜んでいるとのことでした。
 また先日、ダイヤモンド社の部長さんが東京からわざわざ当社を訪ねてこられ、ぜひドラッカー経営の実例集を出版したいので、私に協力してほしいとの依頼がありました。渡米して本人に会う可能性も出てきました。私がこよなく尊敬するのは、なんといっても一に孔子、二にドラッカーです。両者には「知」の重視、「死」と「不死」のとらえ方、そして「人間尊重」の精神などいくつもの共通点があると私は見ています。2500年前の孔子には会えませんが、今年で95歳になるドラッカーには遅くならないうちにぜひ面会したいと強く思います。  そのドラッカーが幾多の著書でもっとも強調したのが、イノベーションを起こせというメッセージでした。イノベーションについては彼は次のように語っています。
「今日無名の企業の多くが、今日行っているイノベーションによって明日リーダー的な地位を得る。逆に今日成功している企業の多くが、一世代前のイノベーションの成果を食いつぶしながら安逸をむさぼっている危険がある。」
「長い航海を続けてきた船は、船体に付着した貝を洗い落とす。さもなければ、スピードは落ち、機動力は失われる。」
「イノベーションとは、既存の知識、製品、顧客のニーズ、市場などすでに存在するものを、はるかに生産的なひとつの全体に発展させるために、小さな欠落を発見し、その提供に成功することである。」
「イノベーションの機会を発見するには、すでに可能になっているにもかかわらず欠落したままの致命的に重要なものは何か、経済的な効果を一変させるものは何かを問わなければならない。」
「イノベーションとは、顧客にとっての価値と満足の創造に他ならない。したがってイノベーションに優れた企業はイノベーションの評価を科学的、技術的な重要度によってではなく、市場や顧客に対する貢献度によって行う。」 「イノベーションは価値を生む。新奇さは面白いだけである。組織の多くが、毎日同じ事をおこない、毎日同じものをつくるのに飽きたというだけで、新奇なものに取り組む。しかし、イノベーションであるか否かは、生産者の好みで決まるものではない。顧客の欲求によって決まる。」
「企業や産業にとっての脅威はすべて、市場、顧客、知識などの環境の変化を予告する。既存のもの、伝統的なもの、確立されたものに固執するならば、あるいは他のいかなることも不可能であると断定するならば、結局は変化によって破滅されせられることになる。」
 いずれも珠玉の名言ばかりです。彼の著書を読んでいるうちに、私はだんだんドラッカーはサンレーグランドホテルについて語っているのではないかと思えてきます。たとえば『イノベーションと起業家精神』という本で、 「イノベーションを未来のために行ってはならない。『25年後には、大勢の高齢者がこれを必要とするようになる』と言うのでは十分でない。『これを必要とする高齢者はすでに大勢いる。25年後にはもっと大勢いる』と言えなければならない。 と述べているのです。これは、どう考えてもサンレーグランドホテルのことではないでしょうか!また、松柏園グランドホテルから業態転換するにあたり本当に色々とありましたが、『創造する経営者』にはこうか書かれています。 「幸運、チャンス、災難が、事業に影響を与える。だが、運では事業はつくれない。事業の機会を体系的に発見し、それを開拓する企業だけが繁栄し成長する。」
 そして、やはり『創造する経営者』の中の次の言葉が、未知の新事業に挑戦する私たちを勇気づけ、励ましてくれます。
「事業上のビジョンは、限定された世界のものであっても、その多くが世の中を変える。イノベーションを行う者は、全体として見るならば、歴史家たちが認識しているよりもはるかに大きな影響を人類の歴史に与える。」
 世界初の複合高齢者施設・サンレーグランドホテル。世の中を変え、人類の歴史に影響を与える壮大なイノベーションが今、はじまりました。