2008
02
株式会社サンレー

代表取締役社長

佐久間 庸和

「"おめでとう"と"ありがとう"で

 ハートフル社会を呼び込もう!」

●情報とは、情を報せること

 いま、北九州市をはじめとして、わたしの造語である「ハートフル」が時代のキーワードになっているようです。
 実は「ハートフル」は、情報の問題に関わっています。現代は高度情報社会です。経営学者のピーター・ドラッカーは、早くから社会の「情報化」を唱え、後のIT革命を予言していました。ITとは、インフォメーション・テクノロジーの略です。  ITで重要なのは、もちろんI(情報)であって、T(技術)ではありません。
 その情報にしても、技術、つまりコンピューターから出てくるものは、過去のものにすぎません。ドラッカーは、IT革命の本当の主役はまだ現れていないと言いました。本当の主役、本当の情報とは何でしょうか。情報の「情」とは、心の働きです。本来の情報とは、心の働きを相手に報せることなのです。
 わたしは、次なる社会とは「心の社会」であると考えています。それは、ポスト情報社会などではなく、新しい、かつ真の情報社会だと言えます。そして、情報の「情」、心の働きを代表するものこそ、「思いやり」ではないでしょうか。

●「思いやり」に満ちた社会

 「思いやり」こそは、人間として生きるうえで一番大切なものだと多くの人々が語っています。たとえばダライ・ラマ14世は「消えることのない幸せと喜びは、すべて思いやりから生まれます」と述べ、あのマザー・テレサは「私にとって、神と思いやりはひとつであり、同じものです。思いやりは分け与えるよろこびです」と語りました。
 仏教の「慈悲」、儒教の「仁」、キリスト教の「愛」をはじめ、すべての人類を幸福にするための思想における最大公約数とは、おそらく「思いやり」という一語に集約されるはずです。そして、「ハートフル」とは思いやりに満ちること。ハートフル・ソサエティとは、「思いやり」に満ちた社会なのです。
 では、「思いやり」はどのように形となるのでしょうか。わたしは、まず「祝い」というものが「思いやり」の形だと思います。

●「おめでとう」に満ちた社会

 私は、「祝う」という営み、特に他人の慶事を祝うということが人類にとって非常に重要なものであると考えています。なぜなら、祝いの心とは、他人の「喜び」に共感することだからです。それは、他人の「苦しみ」に対して共感するボランティアと対極に位置するものですが、実は両者とも他人の心に共感するという点では同じです。
 「他人の不幸は蜜の味」などと言われます。たしかに、そういった暗い部分が人間の心に潜んでいることは否定できませんが、だからといって居直ってそれを露骨に表現しはじめたら、人間終わりです。社会も成立しなくなります。他人を祝う心とは、最高にポジティブな心の働きであると言えるでしょう。
 別に何か特別な出来事がなくとも、お祝いはできます。誰にでも訪れる誕生日が最たる例でしょう。誕生日を祝うということは、その人の存在すべてを全面的に肯定すること。当社の大ミッションである「人間尊重」そのものです。今年から、わたしは社員のみなさん全員バースデーカードを書き、プレゼントをつけてお贈りしています。
 ハートフル・ソサエティとは、「おめでとう」に満ちた社会なのです。

●「ありがとう」に満ちた社会

 思いやりの形が「おめでとう」なら、「ありがとう」は感謝の形です。「おめでとう」がサーブなら、「ありがとう」はレシーブと言えるでしょう。思いやりの心とともに人間にとって最も大切なものこそ感謝の心です。
 一日が平穏無事に終わったときに、万物に感謝の念を捧げることができる人は、すべての面で謙虚です。また、感謝することによって、相手に「自分は重要な人間である」と感じさせることができます。
 「ありがとうという気持ちを持ち続けていれば、不平、不満、怒り、怖れ、悲しみなんか自然に消えてなくなる」とは、中村天風の言葉です。私たちは、感謝すべき出来事があって、その後に感謝するのが普通です。しかし天風は「とにかく、まずはじめに感謝してしまえ」と教えるのです。いま、ここに「生きている」というだけでも、大きな感謝の対象になるというのです。
 感謝こそは、人間が幸せになるためのカギです。ハートフル・ソサエティとは、「ありがとう」に満ちた社会なのです。 

●「老い」と「死」の覚悟を与える

 思いやりの心、感謝の心、この二つの心を世に広めることこそ、冠婚葬祭業であるわたしたちの大きな使命です。結婚式も葬儀も、思いやりと感謝のセレモニーです。その他、初宮祝い、七五三、成人式などなど、わたしたちの仕事はすべてが「おめでとう」と「ありがとう」につながっています。
 特に、わたしは超高齢化社会を迎えた現在、長寿祝いに注目しています。人は長寿祝いで自らの「老い」を祝われるとき、祝ってくれる人々への感謝の心とともに、いずれ一個の生物として自分は必ず死ぬという運命を受け入れる覚悟を持ちます。祝宴のなごやかな空気のなかで、高齢者にそういった覚悟を自然に与える力が、長寿祝いにはあるのです。
 そういった意味で、長寿祝いとは生前葬でもあります。この長寿祝いという、「老い」から「死」へ向かう人間を大いに励ます心ゆたかな文化を、ぜひ世の中に広めたいと願っています。
 人々が「おめでとう」と「ありがとう」の声をかけ合い、お互いが心ゆたかになれる。そんな社会こそハートフル・ソサエティであり、それを実現するのがハートフル・カンパニーなのです。

 おめでとう 返す言葉は ありがとう
    すべての人よ 心ゆたかに  庸軒