2009
11
株式会社サンレー

代表取締役社長

佐久間 庸和

「人間の幸福とは何だろうか?

 先祖と隣人を大切にするお手伝いを!」

●GNHとは何か

 今月は「幸福」についてです。誰でも幸福になりたい。「幸福」こそ、人間にとって最大のテーマでしょう。
 「GNH」という言葉をご存知でしょうか。グロス・ナショナル・ハピネス、つまり、「国民総幸福量」という意味です。ブータンの前国王が提唱した国民全体の幸福度を示す尺度で、世界的に注目されている考え方です。 
 「GNP(国民総生産)」で示されるような「物質的豊かさ」を求めるのではなく、「精神的豊かさ」、すなわち「幸福」を求めるべきであるという考えから生まれたものです。
 ブータンは経済的、物質的には世界でも最も貧しい国の一つですが、国民のなんと九割以上が「自分は幸福だ」と感じているといいます。驚くべき数字ですね。
 ブータンは世界で唯一のチベット仏教を国教とする国であり、葬儀を中心とした宗教儀礼が非常に盛んなことで知られます。そのせいか、ブータンの人々は良い人間関係に恵まれているようです。人間関係の良好さが幸福感に直結しているのです。

●礼能力の時代

 わたしは、どんなにお金や社会的地位や健康に恵まれていても、人間関係に恵まれなければ、その人はやはり不幸だと思います。
 最近の日本では、「幸福」というテーマに関連して「スピリチュアル」という言葉が流行しています。本来は「精神的な」といった意味ですが、どうも霊能力と関連づけられることがほとんどです。
 しかし本当に大切なのは、「霊能力」ではなくて、「礼能力」ではないでしょうか。これは、わが文通相手である宗教哲学者の鎌田東二氏の造語ですが、他者を大切に思える能力、つまり、儒教の「仁」や仏教の「慈悲」やキリスト教の「愛」の力のことです。
 結局、幸福な社会をつくる最大のカギこそ、わたしたちの礼能力であり、その結果としての良き人間関係なのです。

●日本人は必ず不幸になる

 わたしは、物心ついたときから、人間の「幸福」というものに強い関心がありました。学生のときには、いわゆる幸福論のたぐいを読みあさりました。そして、こう考えました。 
 政治、経済、法律、道徳、哲学、芸術、宗教、教育、医学、自然科学...人類が生み、育んできた営みはたくさんある。では、そういった偉大な営みが何のために生まれ、発展してきたのかというと、その目的は「人間を幸福にするため」という一点に集約される。さらには、その人間の幸福について考えて、考えて、考え抜いた結果、その根底には「死」というものが厳然として在ることを知りました。
 そこで、どうしても気になったことがありました。それは日本では、人が亡くなったときに「不幸」と人々が言うことでした。
 人間の致死率は100%です。死なない人間はいません。いわば、わたしたちは「死」を未来として生きているわけです。その未来が「不幸」であるということは、人間は必ず敗北が待っている負け戦に出ていくようなものです。

●死は不幸な出来事ではない

 わたしたちの人生とは、最初から負け戦なのでしょうか。どんな素晴らしい生き方をしても、どんなに幸福感を感じながら生きても、最後には不幸になるのでしょうか。亡くなった人は「負け組」で、生き残った人たちは「勝ち組」なのでしょうか。
 そんな馬鹿な話はないと思いませんか。わたしは、「死」を「不幸」とは絶対に呼びたくありません。なぜなら、そう呼んだ瞬間、わたしは将来かならず不幸になるからです。ですから、人が亡くなって「不幸があった」と言っている間は、日本人は絶対に幸福になれません。
 死は決して不幸な出来事ではありません。死ぬとは人生を卒業することであり、葬儀とは人生の卒業式です。ですから、人が亡くなったときに「不幸」と呼ばないことが大切だと、わたしは思います。
 それから、死者を忘れないということが大切です。わたしたちは死者とともに生きているのであり、死者を忘れて生者の幸福など絶対にありえません。
 最も身近な死者とは、多くの人にとって先祖でしょう。先祖をいつも意識して暮らすということが必要です。

 ●先祖、家族、隣人を大切にする

 現代人はさまざまなストレスで不安な心を抱えて生きています。ちょうど、空中に漂う凧のようなものです。そして、凧が安定して空に浮かぶためには糸が必要です。さらに安定して空に浮かぶためには縦糸と横糸が必要ではないかと思います。
 縦糸とは時間軸で自分を支えてくれるもの、すなわち「先祖」です。また、横糸とは空間軸から支えてくれる「隣人」です。この二つの糸があれば、安定して宙に漂っていられる、すなわち心安らかに生きていられる。これこそ、人間にとっての真の「幸福」の正体ではないかと思います。
 ブータンの人々は宗教儀礼によって先祖を大切にし、隣人を大切にして人間関係を良くしている。だから、しっかりとした縦糸と横糸に守られて、世界一幸福なのです。
 冠婚葬祭業とは、まさに「先祖」と「隣人」を大切にするお手伝いをする仕事です。人間が心安らかに生きていくための縦糸と横糸を張る仕事です。すなわち、「幸福」そのものに直結している仕事なのです。
 日本人を本当に幸福にできるのは、わたしたちを置いて他にはいないのです!

   縦糸と横糸張りて空に浮く
    凧のごとくに生きる幸福  庸軒