2010
02
株式会社サンレー

代表取締役社長

佐久間 庸和

「数字力を身につけ

 人間をもっと幸せにしよう!」

万物は数である

 みなさん、数字力をぜひ身につけましょう。古代ギリシャのピタゴラスは、「万物は数である」と述べました。
 考えてみれば、あらゆるものは数字に置き換えられます。一人の人間は年齢、身長、体重、血圧、体脂肪、血糖値などで、国家だって人口、GDP、失業率などで表わされる。そしてもちろん企業も売上、原価、人件費、利益といった諸々の数値がついてまわります。わが社の場合は、募集口数や施行件数や解約にまつわる数字も重要ですね。葬儀における参列者数の見込みも大切です。
 企業における数値は会計という部門に集約されますが、京セラ創業者の稲盛和夫氏は会計というものの重要性を非常に力説しました。
 稲盛氏は著書『稲盛和夫の実学』で会計の重要性を次のように説明しています。
 わたしたちを取り巻く世界は一見複雑に見えますが、本来は原理原則にもとづいたシンプルなものが投影されて複雑に映し出されているものでしかありません。これは企業経営でも同じです。会計の分野では、複雑そうに見える会社経営の実態を数字によってきわめて単純に表現することによって、その本当の姿を映し出そうとしているのです。

計器盤としての会計データ

 稲盛氏は日本航空の会長になりましたが、奇しくも『稲盛和夫の実学』では経営を飛行機の操縦に例えています。
 会計データは、経営のコックピットにある計器盤に表示される数字に相当します。計器は経営者たる機長に刻々と変わる機体の高度、速度、姿勢、方向を正確かつ即時に示す必要があります。
 そのような計器盤がなければ、今どこを飛んでいるかわからないわけですから、まともな操縦などできるはずがありません。
 ですから、会計というものは、経営の結果を後から追いかけるだけのものであってはならないのです。いかに正確な決算処理がなされたとしても、遅すぎては何の手も打てなくなります。
 会計データは現在の経営状態をシンプルにまたリアルタイムで伝えるものでなければ何の意味もないのです。

数に強い人とは

 企業においては、経営者のみならず、あらゆる社員が数に強くなければなりません。
 では、数に強い人とはどういう人か。
 元東京大学教授の畑村洋太郎氏は、著書『数に強くなる』で、次の二種類の人が「数に強い人」であると述べています。
 第一に、物事を数量的によく考えることができて、しかも記憶しておくことができる人。こういう人は、物事の全体像がキチンと頭の中に入っていて、その全体像との絡みで数を考え、記憶できるそうです。
 第二に、物事から数を引き出して、自分の実現したいことの道筋にその数を乗せ、加工し、発展させることができる人。すなわち、「数を作れる人」なのです。
 こういう頭の動かし方のできる人が、いわゆる「数に強い人」です。計算が速いとか、記憶力が良いとか、そういうことは、できればできたで越したことはありません。でも、数に強くなるための必要条件ではないというのです。大事なのは、こういう頭の動かし方ができるかどうかなのだというのです。

数字力と人間尊重

 すべてのビジネスマンは数に強くなる、つまり「数字力」を身につける必要があります。でも、ビジネスやマネジメントとは、もちろん数字だけの世界でもありません。
 昨年より深刻な不況が続いているようですが、超大手企業による数万人単位のリストラには怒りを感じます。それまで儲けたいだけ儲け、空前の利益をあげてきた優良企業が、ひとたび不況が訪れると、平気で何万人もの従業員の首を斬る。まだ利益が出ている段階でも、業績が下がり株価が下がるのを嫌って、どんどん人間を切り捨ててゆく。
 これには、わたしも経営者の端くれとして、わたしは猛烈な怒りを感じます。何より腹が立つのは、それらの数万人という従業員の存在を「人間」ではなく単なる「数字」としてしか見ていないことです。16,000人なら、そこには16,000人の生身の人間がいて、それぞれには名前があり、顔があり、家族がいて、生活があるのです。そういったリアルな「人間」というものを忘れて、完全に「数字」としてしか見ていない。そこには、「人間尊重」のかけらもありません。

数字は人間の幸せのためにある!

 常に決算時の業績を良くしておかなければ投資家の支持を失ってしまうという、資本主義の悪しき側面です。そして、それはチャップリンが「モダンタイムス」で、やサン=テグジュぺリが『星の王子様』で批判したアメリカで花開いた資本主義の真実の姿です。
 いうまでもなく、本当に大事なのは数字ではなく、人間です。数字とは何でしょうか。それはそもそも、具体的な表象をすべて削り落とした抽象的普遍性のことです。だからこそ、計算もできるわけです。一人、二人、三人と数えられるのは、その人の人格や顔つきや個性などを無視してしまっているからです。
 わたしたちの仕事は、もちろん各種の数字に関わっています。その数字を把握しておくことは大切です。でも、その数字の裏には生身の人間がいるということを、いつも忘れてはなりません。数字とは、人間が幸せになるためにあるのです。

 万物は数と悟れば いとおかし 
      数に遊べど人を忘るな  庸軒