2011
06
株式会社サンレー

代表取締役社長

佐久間 庸和

「危機はつねに近くにある

 ピンチをチャンスに変えよう!」

骨折と想定外

 5月21日に出張先の尾道で足首を骨折してしまいました。わたしの不注意から石段を踏み外したせいですが、まったく人生は何が起こるかわかりません。昔の人は「一寸先は闇」と言いました。
 骨折そのものよりも、今後の予定が大幅に狂うことが痛いです。思わぬ骨折によって、わたしの未来が加速度的に変化していくのを実感しました。まさに、こういうことを人生における「想定外」というのでしょう。
 しかし、被災地の方々や福島第一原発の避難民の方々に比べれば、わたしの「想定外」など問題にもなりません。このたびの東日本大震災こそは、まさに日本および日本人にとって想定外の出来事でした。

人間の力を超越したもの

 日本は地震大国であり、地震や津波に対する備えも十分になされていました。過去に何度も被災した三陸海岸周辺では高い堤防で「世界一」の津波対策をしていたにもかかわらず、その備えでさえ対応できない事態が生じたのです。
 今回、地震や津波に関して専門家から「想定外」という言葉が何度も語られました。マスコミは「逃げ口上」ととらえて反発しましたが、それは間違いです。
 想定とは、合理的推論によってなされるのであり、その枠組みを超える事態が生じた場合には、想定外の事態が生じるのは当然と言えます。
 わたしは、もともと大自然に対して「想定内」など有り得ず、不遜以外の何ものでもないと思っています。今回の大地震で、わたしたち日本人は「人間の力では絶対に及ばない超越的なもの」があることを思い知りました。

危機とは分岐点である

 東日本大震災は、日本にとっての大きな危機でした。英語の「クライシス(crisis)」は、そもそも「分岐点」という意味です。
 わたしが石段で足を踏み外し骨折したのもクライシスであり、分岐点でした。あのまま石段を転げ落ちて頭を打って絶命していた可能性もあったからです。こういうときは、「足の骨折ぐらいで済んで良かった」と考えなければなりません。
 それはともかく、東日本大震災は、日本の重要な分岐点となりました。というより、あの瞬間から日本は新しい歴史段階に入ったのです。元外交官で作家の佐藤優氏は、著書『3・11クライシス!』(マガジンハウス)で、あの大震災によって二つの意味での戦後が終わったと述べています。太平洋戦争敗北後の戦後の終焉、そして冷戦後という戦後の終焉です。  

危機とは選択を下すとき

 「危機」という言葉は英語なら「crisis」ですが、フランス語では「crise」です。
 その語源は、「決定」「判決」「ことの趨勢が定まるターニングポイント」を意味するギリシャ語の「krisis」です。わたしたちは今まさに、いくつかの重要な選択を下すターニングポイントに立っているのかもしれません。
 それは日本という国家だけでなく、冠婚葬祭互助会という業界、サンレーという企業についても言えることです。
 東日本大震災以前には、「無縁社会」「孤族の国」「葬式は、要らない」など、人間関係がどんどん希薄になって、日本人の「こころ」の環境が悪化していくという大きな危機がありました。どんな集団にも危機は訪れるのです。そこでは危機感というものが大事になります。

ゆでガエルに学ぶ

 危機感の重要性を考える時に、よく引き合いに出されるのが、ゆでガエルのエピソードです。カエルを二匹取ってきて、一匹を水に入れた鍋に入れます。その鍋を徐々に温めます。温度の変化が徐々であるので、カエルは何の不安も持たずに、心地良く鍋の中にうずくまっています。
 カエルはいつでも逃げようと思えば逃げ出せるのに、温度が上がっていっても、何の変化意識も持ちません。そして高温になっても気づかず、やがて沸騰した湯の中でゆで上がって最後は死んでしまうのです。
 今度は、もう一匹のカエルを持ってきて、その沸騰した湯の中へ入れます。当然、そのカエルは、熱さに驚いて、必死で鍋から飛び出してしまいます。そのカエルは火傷をするかもしれませんが、死なずにすむのです。

ピンチをチャンスに!

 この単純な実験は、何を教えてくれるのでしょうか。前者は迫り来る危機に気づかずに死に、後者は反射的に危機を感知して生き残る。企業においても、危機を事前に感知して生き残ることが重要なのは言うまでもありません。
 今や、「大手だから大丈夫」「老舗だから安心」「上場企業は潰れない」といった一昔前の常識は通用しません。まさに『平家物語』の書き出しにある「盛者必衰のことわりをあらわす、おごれる者は久しからず」という言葉そのものの時代なのです。
 大切なのは、危機のサインを感知したとき、けっして悲観的になってはならないということです。危機感と悲壮感は違います。単に「この業界に未来はない」などと騒ぎ立てるだけでは悲壮感は生まれても、危機感は育ちません。「大変な時代になったが、これだけのことをやれば大丈夫だ」という生き残るための前向きで明確な指針が必要です。
 ちなみに、わが社ではその指針として「隣人祭り」、「婚活セミナー」を開催し、「グリーフケア」を実施し、さらに必ずや大きな話題を呼ぶであろう新規事業をスタートする予定です。そう、危機(ピンチ)は新たな機会(チャンス)になるのです。

 しのびよる危機に気づけば
   新しき時代をひらく機会得るなり  庸軒