2012
06
株式会社サンレー

代表取締役社長

佐久間 庸和

「『論語』という船に乗って、

 世界一の礼の実践をめざそう!」

「礼の実践」を評価される

 去る5月18日、わたしの「孔子文化賞を祝う会」が松柏園ホテルで開催されました。300人を超える方々がご参集下さり、感激しました。来賓として、世界孔子協会の孔健会長もお越しになり、まことに光栄でした。
 孔健会長に、「わたしの受賞理由は何ですか?」とお聞きしたところ、「礼の実践」であると言われました。わたしたちは日々、多くの結婚式や葬儀のお手伝いをさせていただいていますが、冠婚葬祭の基本となる思想は「礼」です。この「礼」こそは、私が孔子から学んだ最大の教えです。
 「礼」とは、わが社の事業である冠婚葬祭の根本となるものです。それは「人間尊重」の心であり、その心を世に広めることが「天下布礼」ということです。

最も尊敬する人物

 孔子文化賞を授与され、わたしは本当にこれ以上ない喜びをおぼえました。
というのも、わたしは人類史上で孔子を最も尊敬しているからです。もちろんブッダやイエスも偉大ですが、孔子ほど「社会の中で人間がどう幸せに生きるか」を考え抜いた人はいないと思います。
 世に多くの賞あれど、自分が心の底から尊敬している人の名前が入った賞を授与される喜びはひとしおです。
 じつは、わが人生は、孔子の思想によって救われました。40歳になる直前のことです。不惑の年を迎えるにあたり、何をすべきかといろいろ考えましたが、「不惑」という言葉が『論語』の「四十にして惑わず」に由来することから、『論語』を精読することにしました。当時、わたしは社長に就任したばかりでした。わが社は冠婚葬祭を業とすることから、その中核となる「礼」の根本精神を学びたいという想いもありました。

『論語』で不惑になる

 高校の漢文の授業以来久しぶりに接する『論語』でしたが、一読して目から鱗が落ちる思いがしました。その頃の自分が抱えていた悩みや疑問の答えが、すべて『論語』に書かれていたのです。「どうして、2500年前の古代中国人が、21世紀の日本人である自分のことを知っているのだろう?」と不思議で仕方がなく、「この本は自分のために書かれたのではないか」とさえ思いました。
 伊藤仁斎は「宇宙第一の書」と呼び、安岡正篤は「もっとも古くして且つ新しい本」と呼びましたが、本当に『論語』一冊あれば、他の書物は不必要とさえ思いました。
 そこでわたしは、40歳になる誕生日までに、『論語』を40回読むことに決めたのです。それだけ読めば内容は完全に頭に入りますので、以後は誕生日が来るごとに再読します。つまり、わたしが70歳まで生きるなら70回、80歳まで生きるなら80回、『論語』を読んだことになります。

論語とは船である!

 『論語』を何度も読んでいると、不思議なことに、何も怖くなくなってきました。何も惑わなくなりました。何のことはありません、わたしは「不惑」という言葉の出典である『論語』を読み込むことで、実際に「不惑」になったのです。
 このたびの受賞に際して、新聞のインタビュー取材を受けました。その記事の冒頭には、「論語は船旅のようだ。年を重ねながら孔子の思想の"港"に寄ると、心が豊かになる」と書かれています。本当に、その通りです。
 わたしは、『論語』とは船のような存在ではないかと思っています。人生の荒波を超えて無事に航海していける船だと思うのです。
 「志学」や「而立」や「不惑」や「知命」や「耳順」や「従心」といったものは、人生の港ではないでしょうか。『論語』という船に乗れば、安全に次の港に辿りつけるような気がしてならないのです。

「礼」の精神を広める

 わたしは来年、50歳になります。
 「五十にして天命を知る」ということで、自らの使命を知ることでしょう。そして、それはおそらく、孔子の「礼」の精神をさらに広めていくことではないかと思います。
 孔子の「礼」の精神をさらに広めるとは、どういうことか。それは、「葬式は必要!」や「人は老いるほど豊かになる」や「隣人の時代」といったメッセージをさらに広めていくことではないかと思います。
 孔子が開いた儒教は、何よりも「親の葬礼」を人の道の第一に位置づけました。
 人生で最も大切なことは、親のお葬式をきちんとあげることなのです。逆に言えば、親のお葬式をあげられなければ、人の道から外れてしまいます。わたしたちの仕事は、多くの方々に堂々と人の道を歩んでいただくお手伝いをしていると思います。

社員全員による受賞

 わたしは、冠婚葬祭業ほど、世のため人のためになる仕事はないと心から誇りを感じています。日本の冠婚葬祭業は、孔子が説いた「礼」の精神をしっかりと守っていると確信しています。
 冠婚葬祭業もホテル業も、あるいは新たに参入した介護事業も、すべては「人間尊重」というわが社のミッションに直結しています。
 わが社は「礼」の実践を生業とする「礼業」であると思っています。「礼の実践」が評価された受賞ということで、この栄誉ある孔子文化賞は佐久間庸和ではなく、一条真也でもなく、サンレーの社員全員で頂いた賞だと思っております。
 これからも、礼業に携わるわたしたちは「礼」の心を「もてなし」「ふるまい」「しつらい」という形にして、多くの方々の人生の大切な場面でのお手伝いをさせていただきたいものです。
 「論語読みの論語知らず」という言葉がありますが、わたしたちは『論語』を読み込んで、これからも「礼」の実践に努めていきましょう。

 人生の港をめぐる論語船
    いま帆を上げて礼を求めん  庸軒