2018
4
株式会社サンレー

 代表取締役社長

  佐久間庸和

何よりも志が大切

  天を相手に仕事しよう!

●サンレーは「礼業」の会社
 4月2日、NEW松柏園ホテルでサンレーグループの入社式が行われました。
 今年もフレッシュな新入社員のみなさんがたくさん入社してくれました。心より歓迎いたします。
 この時期を迎えるたびに、わたしも社長として身の引き締まる思いがします。新入社員のみなさんの胸には、期待とともに不安もあることでしょう。みなさんは、これまで学生として授業料というお金を払って勉強していました。しかし、これからは会社が給料というお金を払います。
 さて、みなさんは「サンレーは何の会社ですか」と聞かれたら、どのように答えますか。多くの人は「冠婚葬祭の会社です」と答えることでしょう。でも、サンレーは結婚式や葬儀のお手伝いだけでなく、婚活支援サービスやグリーフケア・サポートも行っています。ホテルや高齢者介護施設も経営していますし、隣人祭りも多数開催しています。それらの事業はすべて「人間尊重」をコンセプトとしています。そして「人間尊重」をひとことで言うと「礼」ということになるでしょう。そうです、サンレーとは「礼」の実践を業(なりわい)とする「礼業」なのです。

●何よりも「志」が大切
 世の中には農業、林業、漁業、工業、商業といった産業がありますが、わが社の関わっている領域は「礼業」です。「礼業」とは「人間尊重業」であり、「ホスピタリティ・インダストリー」ということになります。
 このような会社に入った新入社員をはじめとした若い社員のみなさんに一番伝えたいことは、「志」というものの大切さです。志とは心がめざす方向、つまり心のベクトルです。
 志に生きる者を志士と呼びます。幕末の志士たちはみな、青雲の志を抱いていたのです。吉田松陰は、人生において最も基本となる大切なものは、志を立てることだと日頃から門下生たちに説きました。
 松陰の言葉に「志なき者は、虫(無志)である」というのもあります。これをもじれば、「志ある者は、無私である」と言えるでしょう。わたしは、志というのは何よりも「無私」であってこそ、その呼び名に値すると強調したいです。

●「天」に向かって心を射す
 平たく言えば、「自分が幸せになりたい」というのは夢であり、「世の多くの人々を幸せにしたい」というのが志です。夢は私、志は公に通じているのです。自分ではなく、世の多くの人々、「幸せになりたい」ではなく「幸せにしたい」、この違いが重要なのです。若いみなさんは、ぜひ、志を高く、強く持っていただきたい。わが社は「志のみ持参」という人を歓迎したいです。
 志には「心を射す」という意味があります。では、何に向かって射すのか。「天」に向かって射すのです。
 幕末の儒者である佐藤一斎の言葉に「毀誉褒貶は、人生の雲霧なり。この雲霧を一掃すれば、すなわち青天白日」があります。
 「青天白日」つまり心に一点もやましいことのない境地に至ることが重要だというのです。正しい気持ちをもって生きれば、何も恐れることはない。しかし、周りの評判を気にしてしまうと、自分の判断に迷いが生じる。それゆえ、毀誉褒貶は人々を戸惑わせる雲霧のようなものであるといいます。

●つねに「天」を意識した西郷隆盛
 儒学を極めた一斎は、歴史の流れについても、「天の意思も人間世界のあり方も、刻一刻と変化している。それゆえ、歴史の必然的な流れをとどめることはできない。しかし、人間の力ではその流れを早めることもできない」と述べました。彼は、つねに天を意識していたのです。
 一斎の「天」の思想は西郷隆盛に受け継がれ、彼は「敬天愛人」を座右の銘としました。
 ある日、陸軍大将であった西郷が、坂道で苦しむ車夫の荷車の後ろから押してやったところ、これを見た若い士官が西郷に「陸軍大将ともあろう方が、車の後押しなどなさるものではありません。人に見られたらどうされます」と言いました。
 すると、西郷は、「馬鹿者、何を言うか。俺はいつも人を相手にして仕事をしているのではない。天を相手に仕事をしているのだ。人が見ていようが、笑おうが、俺の知ったことではない。天に対して恥じるところがなければ、それでよい」と言ったそうです。
 他人の目を気にして生きる人生とは、相手が主役で自分は脇役です。正々堂々の人生とは、真理と一体になって生きる作為のない生き方です。天とともに歩む人生であれば、誰に見られようとも、恥はかきません。それが西郷の考えでした。

●「敬天愛人」から「天人合一」へ
 東洋思想を象徴する言葉に「天人合一」があります。天、つまり宇宙と人生とは別のものではなく一貫しているという意味です。
 宇宙には「道」という根本的な法則性があり、宇宙の一員である人間も、そこを外れては正しい人生も幸せな人生も歩むことができません。
 それに対して、西洋では天、つまり自然と人間とを対立するものととらえてきました。人間は自然の一部というより、自然は人間が征服すべきものという考え方です。その結果が地球の環境破壊なのかもしれません。
 いま、NHK大河ドラマで放映中の「西郷どん」が話題になっているようですが、主人公である西郷隆盛は明治以後の日本人で最も人徳、人望のあった人物と言われています。その背景には、つねに「天」を意識した生き方があったのです。わたしたち「礼業」にたずさわる者たちも、天を相手に正々堂々と仕事し、生きたいものですね。

 世のために志をば抱くなら
       天を相手に生きてゆきたし  庸軒