2019
9
株式会社サンレー

 代表取締役社長

  佐久間庸和

グリーフケアの時代到来

   日本一の実践集団を目指そう!

●『グリーフケアの時代』
 このたび、『グリーフケアの時代』(弘文堂)という本が出版されました。「『喪失の悲しみ』に寄り添う」というサブタイトルがついています。上智大学グリーフケア研究所の所長を務める島薗進氏(東京大学名誉教授)、同研究所の副所長で特任教授の鎌田東二氏(京都大学名誉教授)、そして同研究所の客員教授であるわたしの3人の共著です。
 上智大学グリーフケア研究所は、グリーフ(死別による悲嘆)を抱える方のケアについての研究と、グリーフケア、スピリチュアルケアに携わる人材の養成を目的として設立されました。『臨床傾聴士』『スピリチュアルケア師』等の資格取得のための専門課程の他、一般向けの公開講座にも力を入れています。本書は学問としてのグリーフケアの要点をまとめた入門書として、大切な人を亡くしたご本人はもちろん、宗教家や支援職の方々にも資する内容となっています。

●グリーフとは何か
 同書の「まえがき」の冒頭を、島薗氏は次のように書きだしています。
「大切な人の死によって、からだの一部をもぎとられたような衝撃を受けたり、心に大きな空白ができてしまったように感じ途方に暮れたといった経験をした人は多い。死別による悲嘆ということであれば、ある年齢以上の人なら見に覚えのあるのがふつうかもしれない。親やきょうだい(さらには、祖父母、おじおば、いとこ)との死別はごくふつうのことだが、逆に子どもの死に立ち会うのは辛い。親やきょうだいが死んだ子どもの辛さは代弁するのも困難だろう」
 続いて、「こうした喪失による重い悲しみを、グリーフとか悲嘆とよぶ。すぐに思い浮かぶのは、近しい他者との死別だが、生き別れ、大切な仕事や生活の場の喪失、誇りや生きがいの喪失など、悲嘆をもたらす喪失の原因はいろいろある。そして、悲嘆を抱えながらも、新たな生活の形へと向かっていける人もあるが、なかなかそれができない人もいる。また、悲嘆を人と分かち合うことができないために、胸がふさがれて苦しんでいる人もいる」と述べています。

●まことに難しく、かつ重要な領域
 同書の「あとがき」では、鎌田氏が、「グリーフケア(Grief Care)とは、さまざまな種類の喪失などによる悲嘆(グリーフ,Grief)に向き合い寄り添うケアのことで、広義のスピリチュアルケア(Spiritual Care)の一つである」と指摘した上で、次のように述べています。
「私はスピリチュアルケアを『嘘をつけない自分や他者と向き合い、対話的な関係を結び開いていく試みとその過程』と捉え、『スピリチュアリティ(Spirituality)』を、嘘のつけない、ごまかしのきかない、心の深みや魂の領域とはたらきだと考えてきたが、この領域は実に具体的でデリケートで簡単に割り切ることができないが、リアルかつ切実に迫ってくる。その、まことに難しく、しかし重要なケアの領域にしっかと連携しつつ三人三様のアプローチで問題提起したのが本書である。」

●グリーフケア・サポートの実践
 そして、わたしは、「グリーフケア・サポートの実践」の章を担当しました。わたしの本業は、言うまでもなく、サンレーという冠婚葬祭互助会の経営です。長年にわたって多くの葬儀をお手伝いしてきましたが、愛する人を亡くしたばかりの方々に接する仕事は、けっしてビジネスライクな感情だけで済まされるものではなく、いつも魂を揺さぶられる思いを味わいます。
 なぜなら、死による別れは誰にとっても一生に一度のつらい経験だからです。その直後のご遺族をサポートさせていただく中で、わたしは数多くの悲嘆を目撃してきました。食事も喉を通らず、まどろむことさえできず、日夜ひたすら亡くなった方のことばかり考え、葬儀が終わるまでご遺体のそばから離れようとしないご遺族、涙が枯れ、喉が嗄れてもなお、体の奥からわき上がる嗚咽を止められないご遺族・・・・・・目の前にそのような方たちがいれば、なんとか支えたい、励ましてさしあげたいと願うのは、人間にとってとても自然な感情であると思います。

●グリーフケアとの出合い
 悲嘆の中にいるご遺族に、何かしら心のケアをできないだろうか。そう考えていたところ、20世紀が終わる頃に「グリーフケア」という言葉に出合いました。愛する人を亡くした悲しみ(グリーフ)をケアする、これこそが自分たちにできる最高のサービスかもしれない、と直感したのです。しかしながら、冠婚葬祭互助会や葬儀社に代表される葬祭業によるグリーフケアの活動に対しては、営利目的の営業活動としてとらえられるおそれがあるのも事実です。冠婚葬祭互助会としてグリーフケアのサポート活動に取り組むことの難しさは、つねづね感じるところです。
 同書で、わたしは「ケアとしての葬儀の取り組み」「ケアとして遺族会の役割」「ケアとしての『笑い』」「ケアとしての『読書』」「ケアとしての『映画鑑賞』」について詳しく述べました。
 「月あかりの会」や「うさぎの会」などの自助グループの内容と活動を紹介しました。また、わが社のグリーフケア・サポートおよび隣人交流サポートでは、毎月、漫談家を招いて「笑いの会」を開き、半年に一度は落語家を招いて大規模なイベントを開催していることを紹介しました。
 そして、もちろん本業である葬儀や法事法要のお手伝い・・・・・・思うに、あの手この手で「喪失」の悲しみに寄り添うサンレーは、グリーフケア・サポートの実践集団だと言えるでしょう。これからも理論と実践を両立させ、日本一のグリーフケア企業を目指しましょう!

 悲しみに寄り添ふ時代来たりなば
       われらの後に道を記さん  庸軒