2003
03
株式会社サンレー

 代表取締役社長

  佐久間 庸和

「ハウステンボス倒産に思う、

 ハウスウェディングは恐くない」

 東京のディズニーランドと並んでテーマパークの「西の横綱」と呼ばれたこともある長崎のハウステンボスが倒産しました。
 1980年代から90年前半にかけて、世界に例を見ないリゾート・テーマパークのブームが日本で起きました。バブルの追い風に乗り、経済的にも時間的にもゆとりが出て、非日常の空間が求められた時代だったのでしょう。それゆえに安易なハード先行のリゾート開発が相次ぎ、環境破壊を招く面がありました。
 そのことに疑問を感じた私は、1991年2月に『リゾートの思想』という本を出しましたが、その中で「千年リゾート」というコンセプトを提唱しました。浮わついた流行に流されず千年の時を刻める普遍的なリゾートをつくるべきだと訴え、その方法論を提示したわけですが、全国のリゾート経営者の方々からさまざまな反響がありました。その中に長崎オランダ村の神近社長がおられ、神近社長と私は某雑誌で対談し、大いに意気投合しました。そして、1992年3月に「千年リゾート」を掲げるハウステンボスがオープンする運びとなったのです。
 当時の私は、富良野・房総・湯布院・石垣島などいくつかのリゾート施設を企画中でしたが、私の思想がそのまま活かされる超スケールのハウステンボスができるなら、もう私はリゾートの世界から身を退いても悔いはないと思った記憶があります。若き日の私が夢を託したハウステンボスが倒産したわけですから、当然センチメンタルな想いもありますが、今の私はサンレーの社長なので、あえてクールにハウステンボス倒産を分析し、現在好調のわが松柏園ホテルと比較して今後の教訓にしたいと思います。
 まず、「朝日新聞」社説にも出ていたように、ハウステンボスには最初から最後まで「人工的な違和感」がつきまといました。オランダの町並みはいくら美しくても、日本の風土の中から育ったものではありません。私は『リゾートの思想』の中で、ディズニーランドや地中海クラブを例に挙げて、いくらすぐれたリゾートでも欧米のものは完全には日本人にはマッチしない。日本人には、日本人がリラックスできる、日本人のためのリゾートがあるはずだとして、空海の四国遍路、利休の茶室、芭蕉の「奥の細道」を日本的リゾートのヒントとして紹介しました。「デラックス」だけではダメで、日本人にとっての「リラックス」が必要とされるのです。
 また、集客施設にはリニューアルが欠かせませんが、2,200億円という巨額の初期投資が響いて、その後思うようにリニューアルができませんでした。
 さらに、巨額の投資にもかかわらず、業績低迷のために銀行からトップ以下、多くの幹部が送り込まれ、徹底的な経費削減の波に洗われました。そのため人財の流出が止まらず、サービスの質は低下する一方でした。ホスピタリティ・サービス業であるハウステンボスを銀行が直接経営するわけですから、送り込まれた経営陣も事業の内容や理念を理解することができず、コンサルタント会社を次々に投入して事態の打開を図ったが、うまくいかなかったわけです。
 ハウステンボスといえば、ハウスウエディングを連想します。全国各地にできているハウスウエディング施設はいずれも、イギリス、フランス、イタリアといったヨーロッパ的空間を演出していますが、その究極の姿であるハウステンボスの失敗を見てもわかるように、日本人にはどうしても人工的な違和感が残る。ハウスウエディングは、しょせんテーマパーク的発想の産物なのです。  またハウステンボスほどではないにしろ、ハウスウエディングも初期投資の後は、構造上、デザイン上もリニューアルが難しい。さらに結局はハード頼みのハウスウエディングは、どうしても料理やサービスがおろそかになりがちです。その結果、一年目はすごく予約が入って一人勝ち状態だが、二年目からは激減し、五年目には撤退を余儀なくされるといいます。
 ひるがえって、松柏園ホテルの例を見ますと、日本庭園や大陶壁を見てもわかるように、もともとが和風テイストです。「ジャパネスク・ホテル宣言」というのもありましたね。それがザ・ブリティッシュクラブ、グラン・フローラ、フェリーチェのヨーロピアン・テイストとうまく混ざり合い、理想的な「和洋折衷」を実現しています。つまりヨーロッパ感覚を楽しみながら、日本人としてくつろげるのです。
 松柏園ホテルの50周年リニューアルで巨額の投資をしなかったことも幸いしました。ザ・ブリティッシュクラブの翌年にグラン・フローラ、大シャンデリアに絵画、フェリーチェにロンドンタクシー......と時間差で投入したせいで、常に松柏園ホテルは進化しているというイメージをお客様に与えることに成功したのです。
 松柏園ホテルは依然好調です。ハウスウエディングなど恐くない。「理想土」という幸福の空間を求めた若き日の私の夢は、ハウステンボスではなく、松柏園ホテルをはじめとしたサンレーグループの諸施設で追求していきます。