2003
05
株式会社サンレー

 代表取締役社長

  佐久間 庸和

「モラルハザードが会社をダメにする。

 悪の誘惑に負ける者は去れ!」

 先月、サンレーの商品とは「人の道」であると述べました。「人の道」とは倫理、すなわち、モラルのことです。サンレーは互助会部門や施行部門を通じて、お客様にモラルという最も大切なものを提供しているわけですが、働く側、つまり当社スタッフにとってもモラルが必要とされます。
 「モラルハザード」という言葉をご存じでしょうか?もともと経済用語ですが、「一人一人のモラルの欠如が、最後には自分自身を支えているシステム自体を崩壊させてしまう」という現象を意味します。
 たとえば、ほとんどの人が加入している「健康保険」のことを考えてみましょう。普通は誰でも病気になったときには、病院に行って健康保険で治療を受けます。しかし、ちょっとしたケガや風邪気味程度なら薬局で薬を買って済ませてしまい、わざわざ病院には行きませんよね。でも、あるとき誰かがこう考えたとします。「自分は保険料を払っているのだから、薬局で薬を買ったり、具合の悪いのを家で寝て治すなんてナンセンスだ」と。そして、安静にしていれば治る状態でも病院に行く。ちょっと疲れたなという程度でも病院に行って治療を受ける。はたまた家で寝ているよりも三食きちんと食べさせてくれるのだから、入院したほうが良いと考えて入院する。
 そういう行動をとる人がどんどん増えていったらどうなるでしょうか。医療保険システムは、病院での治療は本人負担もあることだから、そこまで極端なことはしないであろうという前提でつくられています。風邪か疲れで入院するようになっては、このシステムはひとたまりもないのです。多くの人が気軽に入院することで、医療コストが増大し、保険料を現状より増額させなければならなくなります。すると、こんなに保険料を払っているのだから病院で治療を受けないと損だ、などとこれまで常識的な考えを持っていた人までもが病院に通い始め、最後には全員が病院に通うようになります。そうなると、最終的には一人当たりの保険負担額が高くなりすぎて支払えなくなり、健康保険のシステム自体が崩壊します。本当に病気で困っている人が病院に行けなくなってしまうというわけです。
 最初はほんのひと握りの人が、「自分だけなら......」的に考えて始めたこと、すなわち一人一人のモラルの欠如による行動が、しまいには自分自身を支えているシステム基盤を崩壊させてしまうというメカニズムがモラルハザードなのです。
 よく考えてみれば、昔からこのモラルハザードはそこかしこにありました。「赤信号だけど、車が来ないから渡ってしまおう」、「ゴミの日は明日だけど、朝起きるのはつらいから前の日に捨ててしまおう」、「並んでいる列が長すぎるので、割り込みしてしまおう」......。このような日常的な話なら数えあげてもきりがありません。
 信号無視をして車にひかれても本人が痛いだけですが、それを見ていた子どもが真似をするようになったらどうなるでしょうか。一つのゴミが夜出てるのを見た誰かが、「私も」と思って、二つになる。そして二つあるならと三つ目が出て、気がついてみればその一角は前日に山のようにゴミが出るようになり、カラスが増えてゴミを荒らし、異臭がたちこめるようになります。たった一人のモラルの欠如が、地域全体の環境を破壊することになるのです。
 このようなモラルハザード現象は地域社会のみならず、企業においても起こります。当社の場合を例にしてみましょう。たとえば募集営業員が口数ほしさに本来の役務内容以上のサービスが可能だとお客様にアピールして、お客様もそんなにサービスが良いならと加入するとします。しかし本来がウソの口約束ですから、施行部門としては当然そのような常識外のサービスはできない。お客様は「お宅の従業員が出来ると言ったから、互助会に入ったんだ!」と怒ります。施行部門の人間は困ってしまいます。例のウソをついた営業員は、シャアシャアとこう言うでしょう。「私はそんなこと言ったおぼえはないけど、お客さんがそこまで言うのだから、なんとかしてやってよ!」と。ここで、その営業員がスーパースターだったり、うるさ型だったりすると、施行部門の人間はつい、こう思います。「まあ今回だけはいいか」......これがモラルハザードのはじまりなのです。
 施行部門にも、モラルハザードは起こります。お客様からいただいた寸志を会社に入れず一人でネコババしたり、あろうことか寺院からのバックマージンを受け取るなどという立派な犯罪行為に手を染める。もちろん当社社員のほとんどは高い倫理感を持っており、そんな馬鹿な行為はしないと私は信じています。しかし、そういった悪の誘惑に負ける者がいたなら、モラルハザードが始まり、その人間の人生を狂わすのみならず、その者が属する部署ひいては会社までが崩壊の危機を迎えるのです。
 そんな人は、今すぐ会社を辞めて下さい。