2003
08
株式会社サンレー

 代表取締役社長

  佐久間 庸和

「感動の提供こそがビジネスを制する

 東京ディズニーリゾートに負けるな!」

 いま、ビジネスのキーワードは「感動」ではないでしょうか。「不景気、不景気」とマスコミはやかましいですが、感動したい人と感動を与えたい人がうまくマッチすればヒット商品はいくらでも生まれます。書店で「泣ける感動本フェア」を開催していたので、ためしにのぞいてみると、『盲導犬クイールの一生』『目の見えない犬ダン』『フランダースの犬』『白い犬とワルツを』など、なぜか犬の本が多い。他には『アンネの日記』『火垂るの墓』など戦争に関係したもの。いずれもよく売れているようです。
 隣のオーディオショップに移動して、DVDコーナーの店員さんと話してみると、映画では「タイタニック」や「千と千尋の神隠し」「たそがれ清兵衛」、ドラマでは「北の国から」「三年B組金八先生」、それにNHKのドキュメンタリー「プロジェクトX」など、やはり「感動」を与えてくれるものに根強い人気があるとのこと。
 最近、大学生に「あなたにとっての感動商品とは?」というアンケートを行なったところ、一位がケータイ、二位がパソコンで、三位が毛穴の汚れを取るシートでした。ご存じ百円ショップの百円均一商品(時計、扇風機、枕干し袋など)もズラリとラインナップされています。そう、安さというのも感動なのです。「安い!感動」「旨い!感動」といったように、安さ、おいしさ、面白さ、かわいさなど何でも感動に結びつくといえます。おいしさに目を向けると、飲料でいえばスーパードライ、生茶など、デザートでいえばナタデココ、ティラミス、パンナコッタなどは、いずれも感動商品としてデビューを果たしたのです。「安い!旨い!早い!」の吉野屋など、感動の三冠王をめざしているのです。
 家電商品なども感動商品の宝庫です。思い出してみて下さい、初めてわが家にテレビやビデオデッキや冷蔵庫や洗濯機やエアコンが来たときの感動を。食品や家電のみならず自動車にしろファッションにしろ、あらゆる消費者向けのモノを作っている製造業は、感動の提供者たらんとしています。そして見事に感動の提供者となった企業こそが、ビジネス的にも成功を収めるといえるでしょう。そして、何より感動の提供、感動のプロデュースといえば、サービス業です。われわれの冠婚葬祭をはじめ、ホテル、旅館、レストラン......サービス業はそのまま感動業です。
 現代日本のあらゆる企業の中で、感動業のチャンピオンを一社選べと言われたら、やはり、東京ディズニーリゾートを経営するオリエンタルランド社の名をあげざるをえないでしょう。日本初の巨大テーマパークとして1983年にオープンした東京ディズニーランド(TDL)は今年の4月に開園20周年を迎えました。年々新たに加わるイベント、アトラクションで、何回も訪れるリピーターを獲得。さらに2001年には隣接地に東京ディズニーシー(TDS)も開園し、二つのパークを擁する「東京ディズニーリゾート」へと進化しました。昨年11月には両パーク合わせた入園者が計三億人を突破し、倒産したハウステンボスをはじめ全国的にテーマパークが冬の時代の中で、依然として一人勝ちを続けています。その理由は簡単。ディズニーのパークほど、他のテーマパークは人々に感動を提供できないからです。
 実は私は以前、筋金入りのディズニーウォッチャーでした。『遊びの神話』に「ディズニーランドは、現代の伊勢神宮である」と書くなど、私のこれまでの著書のすべてにTDLが登場するほどです。あらゆる角度からTDLを研究したわけですが、ぜひみなさんにお話ししたいことがあります。
 TDLが、閉園後、毎晩約200人のカストーディアルなる清掃スタッフが、朝一番に来園した赤ちゃんがどこを這ってもいいように徹底的に清掃します。アトラクションの安全点検やメンテナンスも、夜を徹して行なわれます。水中専門で入念にチェックするキャストもいます。太陽が昇りはじめると同時に植栽担当者がやってきて、500種類以上の植物に水を撒き、手入れや植え替えを行ないます。これらの仕事はどうしても開園までに終わらせなくてはならないのです。こういった裏の作業によって、ディズニーリゾートは国内のどのレジャー施設と比較しても、どこよりも美しく清潔であり、どこよりも素晴らしいサービスを提供できる場所となっている。
 また、10,000台を優に超える来園者の車両をコントロールする手法は、おそらく世界一のレベルでしょう。大量の車両を臨時用も含めて12カ所に点在するパーキングに効率よく誘導していく光景は驚異的です。実に一時間当たり3,000から4,000台の車両をさばいているのです!
 湖を優雅に泳ぐ白鳥。でも水の中をのぞいてみれば、必死で足を動かしている。こういった目に見えない努力があってこそ、東京ディズニーリゾートも日本一の感動企業でありえるのです。  当社社内報のメモリアルエピソードのページを見てもわかるように、冠婚葬祭は「感動」の宝庫であり、「感動」を与える機会の数では最強です。ぜひ結婚式の感動、葬儀の感動がお客様に届くように、演出にも気を配りましょう。もちろん、サービス、そして事前の準備を怠ってはなりません。
 先日、オリエンタルランド社の加賀見俊夫社長に20周年のお祝いの手紙を出しました。その中で私はこう書きました。「貴社は感動を提供するわが国ホスピタリティ・サービス業の名実ともにチャンピオンです。でも、サンレーというチャレンジャーの存在をおぼえておいて下さい」と。
 志を高く持って、がんばりましょう!