2008
03
株式会社サンレー

代表取締役社長

佐久間 庸和

「お客様に真心で接し、誠を尽くそう!

 そこからサンレー・ブランドが生まれる」

●ブランドの時代

 佐久間会長が北九州市商工会議所の北九州ブランド開発委員会で委員長を務めているせいか、今年の決意表明には「ブランドの確立」や「ブランド力の強化」といった言葉が多いように感じました。
 「ブランド」とは、もともとは「焼印」のことで、現在では「商標」や「銘柄」を指します。ルイ・ヴィトンとかシャネルとかメルセデス・ベンツなどの高級ブランドの名が浮かびますね。
 カバンや洋服や自動車などのモノだけではありません。ホスピタリティ・サービス業の世界でも、リッツ・カールトンとか加賀屋など、高級ブランド企業は多く存在します。
 また、「ブランド・ロイヤリティ」という言葉を最近よく聞きます。特定のブランドに顧客が忠誠を尽くすことですね。かつて、ブランド力を誇った「白い恋人」や「赤福」、「船場吉兆」などは顧客の信頼を裏切り、ブランド・ロイヤリティを失ってしまいました。

●「忠」とは何か

 ブランド・ロイヤリティは「忠」に関わる問題だと、わたしは思います。儒教の徳目の一つである「忠」とは、その字が「心」と「中」から成るように心の中心、つまり真心や誠意のことです。
 この「忠」というコンセプトが最初に考えられたとき、人々は何を考えていたか。「忠」は『論語』の中に出てきますが、曽子という孔子の高弟の一人が、忠について「我日に三度己を省る。人に諮りて忠ならざりしや」と言っています。
 ここでの人とは、すべての人です。目上や所属団体というように、何か自分より上位の存在に対して忠実であるという考えではなくて、およそ人ならば誰に対しても心の中心から、つまり誠から接しなければならないというのです。すべての人に誠を尽くしているかどうかを反省してみようという、そういう非常にハートフルな考えなのです。

●「忠」とは、人に対する誠実さ

 だから孔子の時代、忠とは他人に対して、それが目上であろうと目下であろうと、あるいは異民族の者であろうと、およそ人であるならば、真心から接する態度と考えられていました。忠の本来の意味とは、人に対する誠実さなのですね。
 それが年を経て、わが国の「忠臣蔵」に見られるように藩への忠とか、主君への忠とか国家への忠とか、いろいろと「忠」の意味も変化しながら今日に至っているわけです。 そのことを考えてみると、中国の古代から誰がつくったかわからない「忠」という考えがあり、初めて「忠」なるコンセプトを明確な徳目として立てた孔子のときに、道徳的な飛躍があり、進歩があったと言えます。
 それが封建諸侯に悪用され、御用学者に悪用されたという時代があって、さらに小さくなれば、同胞でも殺し合うような小さな組織への忠義というようなことになり、そして今、それは市民社会に対する忠実になってきたのである。

●人間でないものに「忠」はありえない

 しかし、わたしたちは「忠」がもつ本来の意味を再び取り戻さなければならないように思います。
 わたしたちは再びもとに返って、目上であろうと、同輩であろうと、目下であろうと、よその知らない人であろうと、およそすべての人に対して真心を尽くしているかどうか、そういう問題として「忠」を考えていかなければならないのです。
 そこで、ブランド・ロイヤリティです。わたしは、企業やブランドなどの人間でないものに「忠」を言ってよいのかどうかは考える必要があると思っています。
 ルイ・ヴィトンやシャネルやメルセデス・ベンツは確かに誰もが認める一流ブランドでしょう。ティファニーやブルガリやロレックスも一流ブランドでしょう。しかし、それらのブランドに顧客がロイヤリティを抱くというのは、わたしは間違っていると思います。
 なぜ、人間がカバンや服や車や宝石や時計に「忠」を尽くさなければならないのですか?人間はモノにも劣る存在なのでしょうか?

●お客様に「忠」を尽くそう!

 ハートフル・マネジメントにおける「忠」とは、何よりもまず顧客つまりお客様に対する「忠」以外にはないと思います。  ドラッカーの言うように、マネジメントの目的とは顧客の創造に他なりませんが、その創造された顧客に対して徹底的に誠を尽くすこと。それは、とりもなおさず、顧客の期待どおりの、あるいは期待を上回る商品やサービスを提供することです。 つまり真のブランド・ロイヤリティとは、顧客がブランドに対して忠なのではなく、ブランドを創造する人々が顧客に対して忠であることなのです。結局は、人間と人間の問題なのです。
 くれぐれも、お客様にサンレーや松柏園やマリエール・オークパインや紫雲閣に「忠」を尽くさせようなどと考えてはなりません。逆に、わたしたちがお客様に「忠」を尽くすのです。そして、お客様の信頼を裏切らず、真心で接し、誠意を尽くすことができれば、そのときこそ、サンレーは本物の一流ブランドになれると、わたしは確信します。
 ぜひ、それぞれの職場でお客様に真心で接し、誠を尽くして下さい。そこからサンレー・ブランドが生まれるのです。

 ブランドにロイヤリティを求めれど
    忠を尽くすは人から人よ   庸軒