2008
05
株式会社サンレー

代表取締役社長

佐久間 庸和

「目に見えないものを形にする

 サービスマンとは魔法使いだ!」

●見えないものでも存在する

 先月は、「本当に大切なものは目に見えない」という話をしました。今月は、それを見せるのがサービスのプロだという話をしたいと思います。
 思いやり、感謝、感動、癒し、夢、希望など、この世には目には見えないけれども存在する大切なものがたくさんある。見えなくても存在するものがあるということを詩人の金子みすゞは「星とたんぽぽ」という詩で次のように表現しています。
「青いお空のそこふかく、
 海の小石のそのように、
 夜がくるまでしずんでる、
 昼のお星は目に見えぬ。
   見えぬけれどもあるんだよ、
   見えぬものでもあるんだよ。
 ちってすがれたたんぽぽの、
 かわらのすきに、だァまって、
 春のくるまでかくれてる、
 つよいその根はめにみえぬ。
   見えぬけれどもあるんだよ、
   見えぬものでもあるんだよ。」

●「心で見る」とは「感じる」こと

 先月の「社長のおススメ本」で紹介したサン=テグジュぺリの名作『星の王子さま』にも、「本当に大切なものは目に見えない」という言葉が出てきます。そして、「大切なものは、心で見ない限り、目には見えない」というジュぺリのメッセージが伝わってきます。
 見えないものを心で見るとは、どういうことでしょうか?それは、「感じる」ということです。「心で見る」とは「感じる」と同じ意味なのです。
 トレンディな外資系のホテルなどより東京の紀尾井町にあるホテル・ニューオータニがいかに超一流のサービスを提供しているかを描いた『サービスの「正体」』(小山薫堂監修)という本があります。そこでも、「共感」というキーワードを打ち出しています。
 旋盤(せんばん)工の職人は、何千、何万という旋盤に触れながら、百分の一ミリの違いを指先で感じられるようになるそうです。また、オーケストラの指揮者は耳を研ぎすまし、あらゆる楽器が音を奏でるなかで、一つの楽器が発する、わずか一音の違いをキャッチするとか。
 同じように、ホテル業や冠婚葬祭業に携わるサービスマンも「共感」する感性を研ぎすますせることでお客様が考えていること、求めていることを瞬時にキャッチできるようになるのです。

●「共感」と「気づき」

 大事なのは、「同感」ではなく「共感」なのです。サービスマンは、お客様とまったく同じ立場にはなれません。しかし、それぞれの立場を想像し、限りなくその心情に近づいてことはできます。
 そして、「共感」とともに「気づき」というものが大事です。「心で見る」というのは「気づく」ということでもあります。 気づく人というのは、人が困っていたりするのが見えるわけですから、すぐにサポートしてあげることができます。また、気づく人は人が喜んでいるときにもそれに気づくので、一緒に喜んであげることができます。気づかない人というのはサービスマンとして失格ですね。  もともと、「気づき」をはじめ、「気配り」「気働き」「気遣い」という言葉があるように、「サービス」とは「気」に通じます。
 わたしは昔から、サービス業とはお客様に元気、陽気、勇気といったプラスの気を提供する「気業」であると言い続けてきました。

●見えないものを形にする

 最後に大事なことは、見えないものを形にして目に見えるようにすることです。そんなことが可能なのかと思うかもしれませんが、もちろん可能です。
 見えないものを形にするとは、茶道、華道、能、日本舞踊などの芸道がそうですし、剣道や弓道などの武道もそうです。ヨガや気功なども含めて、一般に身体技法というものは見えないものを見えるようにする技術なのです。広い意味での芸術や芸能もそうです。それらは、心を形にするテクノロジーだと言えるでしょう。
 そして、サービス業において見えないものを形にする技術とは何か。それは、挨拶(あいさつ)、お辞儀(じぎ)、しぐさ、笑顔、愛語、といったものです。わたしたちが普段から心がけているこれらのものこそ、本当に大切なものを目に見える形でお客様に提供することができるのです。

●何度も繰り返すと「美しさ」になる

 挨拶にしてもお辞儀にしても、もちろんマニュアルがあります。マニュアルに書かれた、また上司や先輩から指導された基本は、繰り返し行ない、徹底してゆくことが必要です。それらが無意識に行なえるレベルにまで高まったとき、やっと一流のプロのサービスマンと呼べるでしょう。
 佐久間会長も著書『わが人生の「八美道」』において、「正しい」ことを何度も繰り返し行ない、自分の身になり、自然と行なえるようになってはじめて「美しさ」になると述べています。  どうか、「思いやり」「感謝」「感動」「癒し」といった、この世で本当に大切なものを目に見える形にして下さい。
 サン=テグジュぺリや金子みすゞといった偉大な芸術家たちが「見えない」といった大切なものを、わたしたちは「見える」形にできるのです。そして、それを何度も繰り返すことによって、なんと「美」まで生み出してしまうのです。まるで、魔法使いではありませんか!

   見えぬもの見えるかたちにする人は
      まこと不思議な魔法使いよ  庸軒