2008
11
株式会社サンレー

代表取締役社長

佐久間 庸和

「良い人間関係こそ最高の贅沢である

 隣人祭りを大いに広めよう!」

●隣人祭りとは何か

 最近、「隣人祭り」というものが非常に話題になっています。地域の隣人たちが食べ物や飲み物を持ち寄って集い、食事をしながら語り合うことです。  都会の集合住宅に暮らす人たちが年に一度、顔を合わせるのですが、いまやヨーロッパを中心に29ヵ国、800万人が参加するそうです。
 隣人祭りの発祥の地はフランスです。パリ17区の助役であるアタナーズ・ペリファン氏が提唱者です。きっかけは、パリのアパートで一人暮らしの女性が孤独死し、1ヵ月後に発見されたことでした。ペリファン氏が駆けつけると、部屋には死後1ヵ月の臭気が満ち、老女の変わり果てた姿がありました。
 同じ階に住む住民に話を聞くと、「一度も姿を見かけたことがなかった」と答えました。
 大きなショックを受けたペリファン氏は、「もう少し住民の間に触れ合いがあれば、悲劇は起こらなかったのではないか」と考えました。そして、NPO活動を通じて1999年に隣人祭りを人々に呼びかけたのです。

●フランスから世界へ

 第一回目の隣人祭りは、悲劇の起こったアパートに住む青年が中庭でパーティーを開催し、多くの住民が参加し、語り合いました。そのとき初めて知り合い自己紹介をした男女が、その後、結婚するという素敵なエピソードも生まれました。
 最初の年は約1万人がフランス各地の隣人祭りに参加しましたが、2003年にはヨーロッパ全域に広がり、2008年には約800万人が参加するまでに発展し、同年5月にはついに日本にも上陸しました。4日間、新宿御苑で開催され、3万人もの人々が集まったそうです。

●隣人祭りの背景

 隣人祭りが発展した背景には、孤独死の問題はもちろん、多くの人々が行きすぎた個人主義に危機感を抱いていることを示しています。
 ペリファン氏は著書『隣人祭り』の「著者の言葉」で次のように述べています。
 「人間には、誰にでも潜在的に寛大さというものが備わっている。ではなぜ、それを覆っている殻を打ち破って寛大さを表に出さないのだろう。人は誰でも問題を抱えているものだ。その問題を解決するには、自分以外の誰かの善意がきっと役に立つはずだ。人間の良心だけが、人間を救える唯一のものだと僕は信じている」
 隣人祭りは、なぜ成功したのでしょうか。「日本経済新聞」2008年8月30日夕刊に、フランスでの成功のステップが次のように4つにまとめられています。
1.人と出会い、知り合う。親しくなる。
2.近隣同士、ちょっとした助け合いをする。(パンやバターの貸し借りなど)
3.相互扶助の関係をつくる。(子どもが急に病気になったが仕事で休めないとき、預かってもらう環境をつくるなど)
4.より長期的な視野で相互扶助をする。(複数の住民で協力し、近所のホームレスや病人の面倒をみたりするなど)

●互助会と隣人祭り

 これを見ると、隣人祭りのキーワードは「助け合い」や「相互扶助」といった言葉のようです。それなら、多くの日本人は互助会を思い浮かべるのではないでしょうか。互助会の「互助」とは「相互扶助」を略したものなのです。
 わたしはフランスで起こった隣人祭りと日本の互助会の精神は非常に似ていると思っています。サンレーはまさに互助会であり、わたしは互助会の各種業界団体の役員を務めています。いまや全国で2000万人を超える互助会員のほとんどは高齢者であり、やはり孤独死をなくすことが互助会の大きなテーマとなっているのです。
 早速、サンレーでは各地で隣人祭り開催のお手伝いをしてゆく計画です。まずは、日本で最も高齢化が進行し、孤独死も増えている北九州市
での開催を果たしました。趣味の会である「むすびの会」のNPO活動とも連動する予定です。
 隣人祭りは、人生最後の祭りである「葬祭」にも大きな影響を与えます。隣人祭りで知人や友人が増えれば、当然ながら葬儀のときに見送ってくれる人が多くなるからです。

●互助会の未来を創造する

 わたしは参列者が一人もいない孤独な葬儀に立ち会うたびに、本当に故人が気の毒で仕方ありません。亡くなられた方には、家族もいただろうし、友人や仕事仲間もいたことでしょう。なのに、どうしてこの人は一人で旅立たなければならないのかと思うのです。
 もちろん死ぬときは一人にせよ、誰にも見送られずに旅立つというのは、あまりにも寂しいではありませんか。
 モントリオール国際映画祭でグランプリを受賞した「おくりびと」が話題になりましたが、人は誰でも「おくりびと」です。そして最後には、「おくられびと」になります。一人でも多くの「おくりびと」を得ることが、その人の人間関係の豊かさを示すのです。
 古代ギリシャの哲学者アリストテレスは、「人間は社会的動物である」と述べ、隣人祭りが生まれた国であるフランスの作家サン=テグジュペリは、こういいました。
 「真の贅沢とは、ただ一つ、それは人間関係の贅沢である」
 あらゆる人は隣人を必要とし、隣人との良い人間関係こそが最高の贅沢なのです。
 隣人祭りは、互助会の未来を創造する大きなカギとなります。隣人祭りを開催して、人間関係を良くするお手伝いに努めましょう!

 隣人は何するものと思ふなら
    まずは集ひて会ふてみるべし 庸軒