2009
02
株式会社サンレー

代表取締役社長

佐久間 庸和

「強欲資本主義の時代が終わる

 輝け、ハートフル・カンパニー!」

●未曾有の不況の原因

 幸いにして当社ではあまり感じないのですが、とにかく景気が悪いようです。「百年に一度の大波」などと言われています。
 この世界不況の直接の原因は、アメリカのサブプライムローン問題とされています。サブプライムローンとは何か。それはずばり、弱者から利益をしぼり出す経済学です。そもそも、負債として扱われていたものが証券化され、市場で取り引きされれば、金融資産となる。まるで「錬金術」そのものですが、特にアメリカの経済界は、そのような金融技術だけで金儲けのできる仕組みをつくろうとしてきました。その技術を「金融工学」と呼びます。
 金融工学は、本来は利益が出るはずのないところからでも、打出の小槌のように儲けを生むという幻想の源となりました。

●資本主義は終わるのか

 サブプライムローンは天才的な詐欺です。何よりそれが悪質なのは、最終的な尻ぬぐいを公的資金という国民の税金でやらせるところです。その詐欺的手法が破綻して、世界の金融システムそのものがグチャグチャになってしまいました。
 わたしは、金融システムというよりも、従来の資本主義そのものが崩壊しつつあるように思います。四百年の歴史をもつ近代資本主義が制度疲労を起こしているような気がしてなりません。
 では、資本主義は終わるのでしょうか。ある意味では、そうだと思います。ただし、終わるのは金融資本主義であり、利益優先の資本主義です。現代の経済社会は、あまりにも拝金主義の価値観で覆われており、倫理というものが感じられません。
 日本を代表する超大手企業も、決算時の業績を意識するあまり、まだ利益が出ているにもかかわらず平気で数万人単位の従業員を解雇する。しかし、そもそも経済とは、人間を豊かに幸せにするため、すなわち人間のためにあったはずです。

●経済と道徳は両立する

 孔子は、「完成された人間とは」と問われて、「目の前に利益がぶら下がっていても義を踏みはずさない」ことを、その条件の一つに挙げています。どうも、「利」と「義」はセットで語られてきたようです。
 「利」と「義」、つまり経済と道徳というものは両立する、と多くの賢人たちが訴えてきました。アリストテレスは「すべての商業は罪悪である」と言ったそうですが、商行為を詐欺の一種と見なすのは、古今東西を問わず、はるかに遠い昔からつい最近まで、あらゆるところに連綿と続いてきた考えでした。
 しかし、かの『国富論』の著者であり、近代経済学の生みの親でもあるアダム・スミスは、道徳と経済の一致を信じていました。
 「神の見えざる手」というスミスの言葉はあまりにも有名ですが、彼は経済学者になる以前は道徳哲学者であり、『道徳感情論』という主著まであるのです。これは『論語』や『孟子』の西洋版のような本です。
 スミスは、道徳と経済は両立すべきものだと死ぬまで信じ続けていました。スミスの後には、マックス・ウエーバーが『プロテスタンティズムと資本主義の精神』で明らかにしたように、資本主義はもともと倫理や道徳というものを内に秘めていたのです。

●論語と算盤(そろばん)を求める

 日本では、江戸時代に石田梅岩が現れて、商業哲学としての「石門心学」を説きました。
 そして時代は下り、幕末明治にかけて渋沢栄一が登場します。
 渋沢栄一は、「日本資本主義の父」と呼ばれ、なんと500以上の会社を設立しました。いずれも日本初となるビジネスを行なう会社でした。つまり彼は、会社というより、五百以上の業界をつくったのです。
 まさに渋沢は日本史上最高・最大の実業家でしたが、父の影響で幼少のころより『論語』に親しみ、長じて志士から実業家になってからも、その経営姿勢はつねに孔子の精神とともにありました。
 「義と利の両全」「道徳と経済の合一」を説いた彼の経営哲学は、有名な「論語と算盤」という言葉に集約されます。
 特筆すべきは、あれほど多くの会社を興しながら財閥をつくろうとしなかったことです。後に三菱財閥をつくることになる岩崎弥太郎から「協力して財閥をつくれば日本経済を牛耳ることができるだろうから手を組みたい」と申し入れがありましたが、これを厳に断っています。利益は独占すべきではなく、広く世に分配すべきだと考えていたからです。

●ハートフル・カンパニーの時代

 ピーター・ドラッカーは、あらゆる企業家の中でも渋沢栄一を最も尊敬し、「彼ほど、社会的責任を知っていた人物は世界にいない」とまで絶賛しています。
 孔子とドラッカーは、わたしが最も尊敬する二人ですが、その間には渋沢栄一という偉大な日本人がいたのです。
 やはり、「利の元は義」であると、わたしは確信します。自分の仕事に対する社会的責任を感じ、社会的必要性を信じることができれば、あとはどうやってその仕事を効率的にやるかを考え、利益を出せばよい。
 昔から「金は天下のまわりもの」というではありませんか。義があれば、天下がまわって追い風が吹くのです。
 わたしは今度の世界不況は意味があることだと、じつは肯定的にとらえています。「利益優先」の拝金主義の時代が終わって、「利義両全」の本来の資本主義の時代が始まるための陣痛だと思うからです。
 これからは、ハートフル・マネジメントを貫く心ゆたかな会社、すなわちハートフル・カンパニーが光輝く時代となるでしょう。

 利のもとは義にあることを知りたれば
        天下まわりて追い風吹けり  庸軒