2009
03
株式会社サンレー

代表取締役社長

佐久間 庸和

「送ること、悼むこと......

 『死』は平等で『葬』は芸術だ!」

●「おくりびと」がアカデミー賞

 第81回アカデミー賞の外国語映画賞を「おくりびと」が受賞しました。日本映画初の快挙です。当社では、「おくりびと」の公開前からチケットの大量購入を決定。紫雲閣のスタッフはもちろん、互助会募集スタッフにいたるまで、多くの方々がこの作品を鑑賞しました。
 「日本人は、いや世界中どこでも同じだが、死を忌み嫌う傾向がある。企画をいただいたときは不安だった。しかし、実際に(映画で取り扱っている)納棺師の仕事をみて、これはやらなければいけないと感じた」という滝田洋二郎監督の受賞コメントを聞いて、わたしは目頭が熱くなりました。
 あらすじはこうです。「旅のお手伝い」と記された求人広告は、「安らかな旅立ちのお手伝い」の誤植でした。その業務内容とは、遺体を棺に納める仕事だったのです。戸惑いながらも納棺師として働き出す主人公には、さまざまな境遇のお別れが待っていました。
「死」という万人に普遍的なテーマを通して、家族の愛、友情、仕事への想いなどを直視した名作です。

●葬儀こそ芸術である

 とくに興味深かったのは、納棺師になる前の主人公の仕事がチェロ奏者だということです。チェロ奏者とは音楽家であり、音楽家は芸術家です。そして、芸術の本質とは、人間の魂を天国に導くものです。
 すばらしい芸術作品に触れて心が感動したとき、人間の魂は一瞬だけ天国に飛ぶといいます。絵画や彫刻などは間接芸術であり、音楽こそが直接芸術であると主張したのは、かのヴェートーベンです。そう、芸術とは天国への送魂術のことなのです。
 わたしは冠婚葬祭、とくに葬儀こそは芸術そのものだと考えています。なぜなら葬儀とは、人間の魂を天国に送る「送儀」に他ならないからです。人間の魂を天国に導く芸術の本質そのものなのです。納棺師に限らず、あらゆる葬送に関わる人々は真の意味での芸術家です。そして、送儀=葬儀こそが真の直接芸術になりうることを「おくりびと」は世界中に示してくれました。まさに快挙です!

●『悼(いた)む人』の登場

 文学界でも大きな動きがありました。天童荒太氏の『悼む人』が第140回直木賞を受賞したことです。「悼む」とは、「哀悼」や「追悼」の「悼む」です。
 日本全国の死者を「悼む」旅を続ける青年が主人公です。彼は、新聞記事などで知った殺人や事故の現場に出向き、死者が「誰に愛されていたか」、「誰を愛していたか」、「どんなことをして人に感謝されたか」を尋ね、「悼み」の儀式を行うのです。
 そんな彼を偽善者とする雑誌記者、彼の家族、夫を殺した女性など、さまざまな登場人物との関係が淡々と描かれています。静かな物語ですが、「生とは何か」「死とは何か」、そして「人間とは何か」といった最も根源的な問題が読者につきつけられます。
 このテーマは、これまで哲学者たちや宗教者たちによって語られてきました。しかし、著者は文学の力によってこの深遠なテーマを極限まで語っています。

●死者を忘れてはならない

 『悼む人』を読んで、わたしは非常に驚きました。常日頃から考え続けていることが、そのまま書かれていたからです。それは、「死者を忘れてはいけない」ということ。
 そして、主人公の「悼む」儀式が、各地の名所旧跡で過去の死者たちのために鎮魂の歌詠みを続けるわたしの行いを連想させたからです。映画「おくりびと」を観たときと同じく、深い感動をおぼえました。
 病死、餓死、戦死、孤独死、大往生...時のあけぼの以来、これまで、数え切れない多くの人々が死に続けてきました。わたしたちは常に死者と共生しているのです。絶対に、彼らのことを忘れてはなりません。死者を忘れて生者の幸福などありえないと、わたしは心の底から思います。
 日本において映画界に「おくりびと」が、文学界に『悼む人』が誕生したことは、大きな事件でした。すでに「千の風になって」がブームになった時から、それこそ風が吹き始めていたのかもしれません。日本人は、いま、明らかに「死」と「葬」を真正面から見つめています。

●死は最大の平等である

 当社では「結婚は最高の平和である」と並んで、「死は最大の平等である」というスローガンを掲げています。
 「生」は平等ではありません。生まれつき健康な人、ハンディキャップを持つ人、裕福な人、貧しい人...「生」は差別に満ち満ちています。しかし、王様でも富豪でも庶民でもホームレスでも、「死」だけは平等に訪れるのです。こんなすごい平等が他にあるでしょうか!まさしく、死は最大の平等です。
 紫雲閣では、日々お世話させていただくすべての葬儀が「人類平等」という崇高な理念を実現する営みであるととらえ、サービスに努めています。これからも、あらゆる死者を「送る」ことと「悼む」ことの意味と大切さを考え続けてゆきたいと思います。
 魂のお世話をし、良い人間関係づくりのお手伝いをすること、それがわたしたちの仕事です。送魂のお手伝いをする「おくりびと」、結魂のお手伝いをする「むすびびと」、そして隣人の関係を良くする互助会営業は「となりびと」です。
 これからの社会を「おめでとう」と「ありがとう」の声に満ちた、ハートフル・ソサエティとするべく、これからも高い志を抱いて、がんばりましょう!

  亡き人を送りて悼む人こそが 
      心ゆたかな時代をひらく  庸軒