2009
05
株式会社サンレー

代表取締役社長

佐久間 庸和

「この苦難の時代をどう生きるか?

 禍転じて福と為す発想を!」

●大変な時代に社会人となる

 先月もお話しましたが、新入社員のみなさんは、これまで授業料というお金を親に払ってもらって勉強していました。
 しかし、これからは会社が給料というお金を払います。お金を貰いながら勉強するわけだから、とても恵まれています。ぜひ恵まれた環境を活かし、貪欲に色々なことを吸収していただきたいと思います。
 日本社会は「百年に一度の波」と呼ばれる深刻な不況にあえいでいます。「内定切り」「派遣切り」「ワーキング・プア」「ネットカフェ難民」といった言葉が飛び交っています。今年の新入社員は、大変な時代、苦難の時代に社会人となったわけですね。
 「草食系男子」とか「お嬢マン」などの言葉が流行しているそうですが、とかく今の若者は線が細いとされています。体力もなければ精神力もない。そして、ケータイやメールを中心とした電子機器によるコミュニケーションに慣れ、生身の人間と接するリアルなコミュニケーションが苦手とされています。
 ずばり、最近の新入社員のみなさんに「強さ」を感じることは少ないです。やはり、どことなく「弱さ」を感じてしまいます。
 おそらく、新入社員のみなさんも新しい社会人としての生活に不安があることでしょう。
 なにしろ、新入社員というのは会社の中では弱者の部類に属すると考えられていますから、それも無理のないことかもしれません。でも、わたしは大いに不安な思いをして、大いに苦労をしてもらいたいと思います。

●人間通・秀吉の「気配り」

 なぜなら、当社はサービス業。人間の心を扱う仕事です。若いうちに苦労をすればするほど、人に優しい人になれるからです。お客様はもちろん、後輩や部下にも「気配り」ができる人になれるからです。
 かの豊臣秀吉は、現場の人間のやる気を高めることに異常な努力をしたといいます。特に「気配り」には抜群のエネルギーを注ぎ、大きな効果をあげました。
 秀吉自身が貧しい農家の出身であり、子どものときから大変な苦労をしました。完全に社会的な弱者でした。自分が苦労した弱者であったから、弱者の苦労がよくわかる。どこを押せば他人が痛がり、あるいは喜ぶかを熟知した稀代の「人間通」だったのです。
 その人間通としての秀吉は、作家の司馬遼太郎をして「人間界の奇跡」と言わしめた成功者となりました。信長に小便までかけられた一介の草履取りが、ついには天下人にまで上りつめたのです。

●「弱さ」のマネジメント

 秀吉と並ぶ「人間界の奇跡」が、一代で世界の松下電器をつくり上げた松下幸之助です。世界企業の創業者は他にもいますが、彼はとにかく度外れた社会的弱者でした。
 幼少の頃は実家が豊かだったそうですが、小学四年生のときに父親が米相場に手を出して破産しました。十人いた家族は離散し、極貧ゆえに次々に死んでゆきます。とにかく貧乏で、病気がちで、小学校さえ中退しました。
 この「金ない、健康にめぐまれない、学歴ない」の「三ない」人間が巨大な成功を収めることができたのは、自分の「弱さからの出発」という境遇をはっきりと見つめ、容認したからに他なりません。
 一見、否定されがちな「弱さ」が人生やマネジメントにおいては、きわめて重要なものであると再認識するべきです。
 その「弱さ」の思想は、「他力」という仏教的思想につながります。他力とは、目に見えない自分以外の何か大きな力が、自分の生き方を支えているという考え方です。
 自分以外の他者が、自分という存在を支えていると謙虚に受けとめることが重要です。 

●松下幸之助の成功哲学

 そして、「他力」を意識して感謝の心を持って生きていれば、運命が拓け、今度は「自力」が作動します。
 松下幸之助は、著書『人生談義』において次のように述べています。
 「運は努力によって生み出すもの、という人がいますね。そういう見方も大事だとは思いますが、運があるからこういう成果があがったのだという見方も非常に大事だと思いますよ。つまり成功して順調にいっているときは運がいいのだと思い、困難なときは自分のやり方がまずいからだと考える。こういう考え方をした方が自分を御していく上において楽ではないか、とこう思うんです」
 この松下幸之助の言葉は、究極の成功哲学であり、幸福哲学であると言えます。

●禍転じて福と為す

 この驚くべき思想を持つに至ったのも、とにかく彼が苦労に苦労を重ねて、自らの弱さを自覚したからに他なりません。
 貧乏なゆえに商売に励んだ。体が弱いゆえに世界的にも早く事業部制を導入した。学歴がないゆえに誰にでも何でも尋ねて衆知を集めた。彼は、自分の弱さを認識し、その弱さに徹したところから近代日本における最大の成功者となりました。
 新入社員のみならず、若手社員のみなさんも、自分の「弱さ」を大いに自覚し、それを逆手に取ってください。
 どんなに困難が襲ってきても、そのマイナスエネルギーをプラスに転換する考え方をして下さい。わたしの座右の銘でもありますが、「禍転じて福と為す」と言葉を胸に刻みましょう。  生きる上では、ものごとをすべてプラス思考で考え続けることが大切なのです。
 
 もろもろの苦難乗り越え生くるには 
     禍(わざわい)転じて福と為(な)すべし  庸軒