2010
01
株式会社サンレー

代表取締役社長

佐久間 庸和

「法律力を身につけて

 コンプライアンス時代を生き抜こう!」

●「力」が時代のキーワード

 今年から毎月、「力」をテーマにお話していきたいと思います。かなり以前から「力」という言葉は出版界などでキーワードになっていました。書店をのぞいても、「力」がついた書名の本が目立ちます。『鈍感力』『悩む力』『断る力』『目立つ力』などなど・・・。
 本当は、わたしは「力」という言葉があまり好きではありません。もうパワーゲームは終わりにしたい気もしますが、この混迷の時代をわが社が生き抜いていくには、そして競争社会を勝ち抜いていくには、全社員がさまざまな「力」を身につけることが求められます。
 これから、部署に関わらず、すべてのサンレーマン、サンレーウーマンにとって必要な「力」を紹介していきましょう。

●悪を抑えるものとしての「法」

 まずは、「法律力」からです。
 現実世界において最も影響力のあるものは法律かもしれません。
 古代中国の孟子は、人間はもともと良い性質を持っているのだという性善説を唱えました。それに対して荀子は、人間の本性は悪であって、善というのは「偽り」であるとの性悪説を主張しました。ここで言う「偽り」とは、現代の日本人が言う「偽(にせ)」ではなく、ニンベン(つまり、人)にタメ(為)と書く「人為」、つまり後天的という意味です。
 先天的には人間の性は悪であるが、後天的に良くなるのだというのです。そこで悪を抑えるものとしての「法」が重視されました。荀子の門下からいろいろな弟子が出ました。彼らは「法家」と呼ばれました。『韓非子』の韓非や秦の政治を支えた宰相の李斯などが有名です。
 そして商鞅が法律万能、厳罰主義を政治の基本とし、その法治主義で秦が強くなり、始皇帝の中国統一を可能としました。

●現実に影響を与える法律の力

 その秦は14年しか存続しませんでした。長きにわたって繁栄したローマ帝国も「法」によって治められていました。 世界中に影響を与えたローマ法は有名ですが、初代皇帝アウグストゥスが何よりも「法」を重んじました。
 たとえば、ローマ帝国で深刻な問題となっていた離婚と少子化を食い止めるために、彼は二つの法律を成立させて、これらを見事に減少させています。
 作家の塩野七生氏は、「古代の西欧世界において人間の行動原理の正し手を、ユダヤ人は宗教に、ギリシャ人は哲学に、そしてローマ人は法律に求めた」と述べています。ローマ人は、現実世界に対する法律の影響力の大きさを証明したのです。

●コンプライアンスの時代

 近年、「コンプライアンス」という言葉をよく見たり、聞いたりします。いわゆる「法令遵守」という意味です。偽装表示、欠陥隠蔽、詐欺的販売、個人情報漏えい・・・消費者の信頼を揺るがす不祥事が続発しています。
 こうした企業の多くが法令違反を問われ、社会から厳しい批判にさらされています。行政処分によって、業界の最大手企業が忽然として消滅する事態も現実に起こっています。まさに、正しいことをしないと損をするのです!
 企業においては、消費者保護をより一層重視する姿勢が求められています。消費者に対して儀式サービスを提供する冠婚葬祭互助会も例外ではなく、わが社では、これまで以上に消費者保護を意識し、コンプライアンス委員会を設置しました。
 もともと日本は法治国家ですから、法令遵守は当たり前の話。法律を超えて消費者の視点に立ち、国民が安心して暮らせる社会を目指さなければなりません。

●消費者庁と特定商取引法の改正

 こうした流れの中で、政府は、消費者行政を一元的に取り扱う消費者庁を昨年の9月にスタートさせ、割賦販売法も改正されました。さらには、「特定商取引に関する法律」の改正が2008年の6月に決定し、09年の12月から施行されています。これは産業界にとって大きな変化でした。
 この改正によって従来の指定商品や指定役務制度が廃止されたことに伴い、互助会事業も同法が適用されることになりました。互助会各社も消費者の目線に立って、自社の行動が消費者の安心に貢献できているか、改めて見直す必要があります。

●ビジネス・パーソンに必要な「法律力」

 裁判員制度の導入などからも明らかなように、これからの日本社会は全国民が法律に対して無関心ではいられません。変化の激しいビジネスの世界においてはなおさらです。
 弁護士の荘司雅彦氏は、ビジネス・パーソンとして最低限必要なスキルとして、「法律力」を提唱しています。「法律力」とは、法的思考力と法的解釈力を併せたものとのこと。法的思考力をさらに細分化すると、論理的思考力、バランス感覚、利益状況の把握力に分解できます。
 そもそも法が適用される場面は、利益対立が生じている状況です。その利益対立をバランスよく解決し、論理的に説明するための力が法的思考力なのです。また、法的解釈力は、はじめてみる条文であってもその趣旨を正確に読み取る力のことです。
 ぜひ、わたしたちも法律力を身につけ、コンプライアンス時代を前向きに力強く生き抜きましょう。

 人びとの安心守る世のために
    法の力をいざ身につけん  庸軒