2010
10
株式会社サンレー

代表取締役社長

佐久間 庸和

「革新力を身につけ、

 コミュニティを再生しよう!」

イノベーションとは何か

 先月は「伝統力」についてお話しましたが、今月は「革新力」です。この二つは一見矛盾するようですが、じつは組織を動かすための車の両輪です。
 ドラッカーは、企業が繁栄するためには「継続と変化」がともに必要であると述べました。わたしは、「継続」を可能にするものが伝統力であり、「変化」を生むのが革新力であると思っています。
 また、ドラッカーはマネジメントに不可欠な機能として、「顧客の創造」としてのマーケティングとともに、「価値の創造」としてのイノベーションを挙げています。
 この「イノベーション」という言葉は、経済学者シュンペーターの名著『経済発展の理論』で初めて示されたコンセプトです。
 イノベーションを実行する者、すなわちイノベーターだけが真の利益を生み出す。そのように、シュンペーターは主張しました。しかし、その利益は常に短命であるとも言っています。よって、常に絶え間なくイノベーションを続けていかなければ利益を生み出すことはできないのです。

創造的破壊こそが「利益」を生む

 シュンペーターは、「イノベーションとは創造的破壊である」という名言を残しています。イノベーションは過去を破壊します。ですから、昨日の資本設備と資本投資を陳腐化させます。したがって、経済が発展するほど資本形成が必要になってくるのです。
 古典派経済学、あるいは会計士や株式市場が利益としているものは、企業存続のコストです。いま好調な事業の利益を当てにするという、いわば未来のためのコストです。
 したがって、本当に利益をあげて富を増やし、今日の雇用の維持と明日の雇用の創出のためには、資本形成と生産性向上が不可欠になってきます。
 シュンペーターの言う「創造的破壊」を行なうイノベーターだけが、「利益」の存在を説明できる唯一の根拠です。「利益」というものをまったく正しい存在とするもの、それが「創造的破壊」という真のイノベーションなのです。

利益とは未来のコストである

 シュンペーターの経済学では、利益は十分にあるかというが常に問題となります。利益とは何か。それは、未来のコストであり、企業存続のコストであり、かつ新たな創造的破壊のためのコストなのです。
 結局シュンペーターは、制度やシステムではなく、経済活動の中心に人間を置いたのです。それは従来の経済学から見れば、まったくの異端でした。そして、このシュンペーターの「人間中心」の立場を引き継いだ人物こそがドラッカーでした。ドラッカーも人間を中心に経済を読み解き、ついには人間学としてのマネジメントを発明しました。ドラッカーが、イノベーションを重視したことは当然であり、「イノベーションとは、顧客にとっての価値と満足の創造に他ならない」と定義しています。ドラッカーいわく、本物のイノベーションであるかどうか。それは、価値を創造しているかによって判定されます。イノベーションとは、顧客にとっての価値の創造なのです。

わが社のイノベーション

 わが社は、冠婚葬祭業界において多くのイノベーションを実現してきました。まず、1978年にオープンした「小倉紫雲閣」が日本最初の大型総合葬祭会館とされています。葬儀の専門会館であるセレモニーホール自体、わが社がイノベーションに成功した例として知られているのです。
 そして、2004年にセレモニーホールとホテル、カルチャーセンター、スポーツクラブ、美術館など各種施設を組み合わせた世界初の高齢者複合施設「サンレーグランドホテル」を北九州市にオープンさせました。
 なにしろ、葬祭会館と元気なお年寄りが集まる施設をドッキングしたのですから、その衝撃度は大きく、大変な話題となりました。実際、わたしもまったく新しいビジネスモデルが生まれたと思っています。
 そして、この10月1日、さらに新しいビジネスモデルがオープンしました。日本最初のセレモニーホールである「小倉紫雲閣」の隣に完成した「ムーンギャラリー」です。国内最大のグリーフケア・サロンとして大きな話題になっています。

そして、「隣人祭り」へ

 わたしたちの業界について考えると、戦後に誕生した冠婚葬祭互助会そのものが大いなるイノベーションであったと思います。互助会が成立したのは、人々がそれを求めたという時代的・社会的背景がありました。
 現在、「無縁社会」が叫ばれていますが、もし互助会が成立していなければ、今よりもさらに一層「血縁や地縁の希薄化」は深刻だっただろうと予測されます。
 なぜなら、敗戦から高度経済成長にかけての価値観の混乱や、都市への人口移動、共同体の衰退などの流れの中で、何とか人々を共同体として結びつけつつ、その運営を近代的事業として確立する必要から、互助会は誕生したからです。
 しかし、「無縁社会」が到来した今、コミュニティの再生をめざす互助会はどうやら制度疲労を起こしているように思われます。互助会業界にとって新たな革新力が必要となります。戦後の日本で「冠婚葬祭互助会」が人々に求められたように、現在では「隣人祭り」が人々に必ずや求められるでしょう。
 今こそ、わたしたちの革新力を発揮する時が来ました。がんばりましょう!

 新しき流れに沿ひて
   新しき仕組み作るは われらの仕事  庸軒