2012
12
株式会社サンレー

代表取締役社長

佐久間 庸和

「小よく大を制す...

 柔道ストラテジーで勝つ」

山下泰裕氏と会う

 先日、佐久間会長とともに横浜で山下泰裕氏にお会いしました。山下氏といえば、言わずと知れた「史上最強の柔道家」です。
 1984年のロサンゼルス五輪で無差別級の金メダルに輝いたのみならず、引退から逆算して203連勝、また外国人選手には生涯無敗という大記録を打ち立てました。85年に引退されましたが、偉大な業績に対して国民栄誉賞も受賞されています。
 引退後は、全日本柔道チームの監督・コーチとして、野村忠宏、古賀捻彦、井上康生、篠原信一といった名選手を指導されました。まさに「柔道の申し子」のような方です。
 山下氏は、「NPO法人柔道教育ソリダリティー」の代表として、柔道を通じた国際交流を推進しておられます。特にミャンマーとの国際交流に情熱を燃やしておられ、その関係で「日緬仏教文化交流協会」の代表である佐久間会長と会談の席が設けられたわけです。

「柔道一直線」の思い出

 ミャンマーの件についても大いに意見交換させていただきましたが、わたしには山下氏と柔道の話をたっぷりさせていただいたことが何よりの至福の時間となりました。
 わたしの「一条真也」というペンネームは、梶原一騎原作のテレビドラマ「柔道一直線」の主人公「一条直也」にちなんだものです。そのことを山下氏にお伝えすると、とても驚かれ、それから嬉しそうな笑顔を見せて下さいました。
 原作劇画では、じつは一条直也は小倉の出身でした。ドラマでは、桜木健一扮する一条直也の「二段投げ」とか「フェニックス」とか、とにかくアクロバティックな大技が強く印象に残っています。あと、足でピアノを弾く近藤正臣が異様でした。ミキっぺ役の吉沢京子は、とっても可愛かったですね。少年時代、わたしは「柔道一直線」のドラマにはまり、大きな影響を受けました。

父子で柔道に親しむ

 「柔道一直線」の脚本を書いた佐々木守は「ウルトラセブン」などでも活躍した天才脚本家です。石川県・小松の㈱ビルカンの佐々木均社長は弟さんにあたります。その息子さんが、今度の衆院選で石川第二区から出馬した佐々木紀(はじめ)さんですね。森喜朗元首相の後継者として大きく期待されている方です。
 さて、佐久間会長は高校、大学と通じて柔道の猛者でした。柔道の本場・講道館で修業し、神様・三船久蔵先生を尊敬していました。大学卒業後、事業を起こしてからも「天動塾」という町道場を開いて、子どもたちに柔道を教えていました。
 わたし自身もそこで柔道を学びました。ですから、物心ついたときから柔道に親しみ、高校時代に二段を取得しました。大学時代に四段だった佐久間会長は、現在は七段教士です。父子で柔道に親しんできました。

ドラッカーの「起業家柔道」

 山下氏とはいろいろな話題で盛り上がりましたが、わたしが「ドラッカーも柔道に注目していたのですよ」とお話すると、非常に興味を抱かれた様子でした。
 もともとピーター・ドラッカーは、日本画をはじめとして日本文化に深い共感を寄せていましたが、その中で日本を代表する武道である柔道にも関心を持ったようです。
 マネジメントの父であるドラッカーは、「起業家柔道」なるコンセプトを提示しています。ドラッカーは、著書『イノベーションと企業家精神』(上田惇生訳、ダイヤモンド社)において次のように述べています。
「起業家柔道の目標は、まず海岸の上陸地点を確保することだ。既成企業がまったく警戒していない場所か、守りが手薄な場所だ。それに成功し、適度な市場シェアと収益源を確保した新参者は、次に『海岸』の残りの部分に侵入し、最後に『島』全体を支配する」と書いています。

柔道ストラテジーとは何か

 企業経営においても「柔道」は大きなキーワードであると思います。「柔よく剛を制する」の言葉のとおり、柔道で勝つには、体重や体力で勝る対戦相手が、その大きさゆえに墓穴を掘るような技をかけなければなりません。これによって、軽量級の選手でも、身体的にかなわない相手を倒すことができます。
 ここから、ハーバード・ビジネス・スクールの国際経営管理部門教授のディビッド・ヨフィーらは、「柔道ストラテジー」なる最先端かつ最強の競争戦略理論を思いつきました。柔道ストラテジーの反対は、体力やパワーを最大限に活用する「相撲ストラテジー」です。この戦法の恩恵にあずかるのは、もちろん大企業です。しかし、新規参入企業の成功戦略には、必ず柔道の極意が生かされているのです。
 大きな企業を倒すには、つまり柔道で勝つには三つの技を習得しなければなりません。

大きな相手を投げ飛ばせ!

 第一の技は「ムーブメント」で、敏捷な動きで相手のバランスを崩すことによってポジションの優位を弱める。第二は「バランス」で、自分のバランスをうまく保って、相手の攻撃に対応する。第三は「レバレッジ」で、てこの原理を使って能力以上の力を発揮する。 柔道草創期の専門書には、「投げ技をかける前には、ムーブメントを用いなければならない。ムーブメントによって、相手を不安定なポジションに追い込む。そして、レバレッジを用いたり、動きを封じたり、手足や胴体の一部を払って投げ飛ばす」とあります。
 講道館柔道の創始者である嘉納治五郎は、その晩年、「精力善用」と「自他共栄」の精神を強く説きました。柔道には、単なる戦略や戦術を超えた深い思想があります。
 わたしたちにも、各地域や各部署で大きなライバルがいますね。ぜひ、三つの技を駆使して、巨大な敵を投げ飛ばしましょう!

 おのれより巨(おお)きな者にひるまずに
    崩して投げる柔(やわら)のこころ  庸軒