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一条真也
「『寺院消滅』に思うこと」

 

 先日、わたしが客員研究員を務める冠婚葬祭総合研究所主催の講演会が開催されました。テーマは「寺院消滅」で、講師は「日経ビジネス」記者にして僧侶でもある鵜飼秀徳氏。いま、鵜飼氏が書かれた『寺院消滅』(日経BP社)という本が大きな話題を呼んでいます。今後25年のあいだに現在日本に存在する約7万7000の寺院のうちの約4割近くが消滅するという予測を統計的データのもとに示す衝撃の書です。

 日本創成会議(座長・増田寛也元総務相)が発表した「消滅可能性都市」が話題になりました。それによれば、このまま大都市圏への人口流出が止まらず、若年女性の減少などが進めば、2040年には全国の自治体の49.8%が消滅する可能性があると指摘されました。自治体が消滅すれば、当然ながら、そこにある寺院も消滅します。鵜飼氏は次のようなショッキングな事実を明かします。

 「現在、全国に約7万7000の寺院がある。そのうち無住寺院(住職が不在の寺院)は約2万カ寺に達している。さらに宗教活動を停止した不活動寺院は2000カ寺以上にも上ると推定される。無住寺院とはつまり空き寺のことであり、放置すれば伽藍(がらん)の崩壊や、犯罪を誘引するリスクがある」

 寺が専業で食べていくには、少なくとも檀家数は200軒なければ難しいと言われます。それも地域差があり、檀家が200軒以下であれば、住職が副業を持たない場合、生計を立てていくのは厳しいとされます。後継者のいない寺や経済力のない寺は「消滅可能性寺院」といえます。消滅可能性寺院の中には、荒廃した庫裏に独居状態で老僧が暮らしており、孤独死を待っているような悲惨な状況も少なくなく、後継者探しを諦めている住職も多いといいます。

 日本の寺院はかつてない危機に瀕しており、「菩提寺がなくなる」「お墓もなくなる」という事態が現実になろうとしています。「坊主丸儲け」とか「お坊さんは金持ち」といったイメージはいまだに強いですが、じつは経済的に困窮しているお寺は増える一方なのです。中でも地方のお寺の事態は深刻で、高齢化や過疎は檀家の減少につながり、寺の経営を直撃する問題となっています。

 一方で、都会で働くビジネスパーソンにとって、お寺やお墓は遠い存在になりつつあります。お寺との付き合いは「面倒」で「お金がかかる」ばかりと考え、できれば「自分の代からはもう、お寺とは付き合いたくない」と思い始めているのです。そんな人々が葬儀を無宗教で行い、「お墓もいらない、散骨で十分」などと言っています。

 『寺院消滅』は、経営の危機に瀕するお寺と、お寺やお墓はもういらないという現代人の両方を豊富なデータで浮かび上がらせています。問題の根底には、人々のお寺に対する不信感が横たわっています。僧侶は、これまで宗教者としての役割を本当に果たしてきたのでしょうか。檀家や現代人の「こころ」のニーズにきちんと応えてきたのでしょうか。

 わたしは『永遠葬』(現代書林)などの一連の著書で、「仏式葬儀が制度疲労を迎えている」と書きました。誰が何と言おうと、日本仏教の核心は葬儀です。日本仏教は葬儀によって社会的機能を果たし、また一般庶民の宗教的欲求を満たしてきたことを忘れてはなりません。しかし、僧侶自身は「葬式仏教」に自信が持てないのが現実です。

 昨年6月、福岡で仏教連合会主催によるシンポジウムが開催されました。400名近い僧侶の方々が集まり、わたしが「葬式は必要~有縁社会をめざして」の演題で基調講演を行いました。また講演後には、「終活~人生終焉への心構え~」をテーマとするパネルディスカッションが開催され、わたしも参加しました。

 パネルディスカッションは、「葬式は必要か、不要か」という議論からスタートしました。わたしの前に発言された僧侶の方が「葬儀屋と坊主が集まって『葬式は必要』と言っても始まらないでしょう」とか、「葬式をするも良し、しないのも良し」などと言うので、わたしは深く落胆しました。また、お布施に関する下品なジョークが出たのも残念でした。

 現在、宗教者としてのオーラのある僧侶が少なくなってきました。このままでは「寺院消滅もやむなし」と思ったりもします。日本創成会議の「消滅可能性都市」の予測が正しければ、寺院だけでなく神社も消滅するはずです。寺院の檀家と同じく、神社の氏子も減少する一方だからです。日本の神社仏閣はどうなるのでしょうか?

 わたしは冠婚葬祭互助会を経営し、また業界団体の会長も務めています。互助会というのは会員からの会費によって結婚式場や葬祭会館などの施設を運営する組織です。考えてみれば、寺院や神社というのも一種の互助会ではないでしょうか。寺院は檀家という、神社は氏子という、会員に支えられて施設を運営し、維持する相互扶助システムであるように思えてなりません。

 いま、寺院も互助会も制度疲労を迎え、アップデートが求められています。現在、互助会は日本人の多くの葬儀をお世話させていただいています。寺院と互助会のコラボのような形で、各地での「寺院消滅」を防ぐことはできないでしょうか。そんなことを講演後の質問時間に、わたしが発言すると、鵜飼氏は大きくうなずいてくれました。