2015
11
株式会社サンレー

 代表取締役社長

  佐久間庸和

「創立49年を迎え

 和を求めてさらに前進しよう!」

●『和を求めて』の刊行

 このたび、一条真也として最新刊『和を求めて]』(三五館)を上梓しました。わたしの80冊目の本となります。「なぜ日本人は平和を愛するのか」というサブタイトルがついています。さまざまなテーマを取り上げながら「日本人とは何か」を追求した内容であり、『礼を求めて』および『慈を求めて』(ともに三五館)の続編です。
 帯には「戦後70年、日本の心が世界を救う」「『和』は大和の『和』であり、平和の『和』である!」と書かれ、和服を着たわたしの写真が使われています。着物は佐久間会長から譲られた大島ですが、松柏園ホテルの茶室で撮影しました。小笠原流礼法宗家であった故小笠原忠統先生が設計に携わられた由緒ある茶室です。
 和服を着ると「自分は日本人なのだ」ということが強く自覚され、身が引き締まるような思いがします。

●日本は「大和」の国である

 「和」は日本文化のキーワードです。
 陽明学者の安岡正篤によれば、日本の歴史には断層がなく、文化的にも非常に渾然として融和しているといいます。征服・被征服の関係においてもそうです。諸外国の歴史を見ると、征服者と被征服者との間には越えることのできない壁、断層がいまだにあります。しかし日本には、文化と文化の断層というものがありません。天孫民族と出雲民族とを見ても、非常に早くから融和しています。
 三輪の大神神社は大物主神、それから少彦名神を祀ってありますが、少彦名神は出雲族の参謀総長ですから、本当なら惨殺されているはずです。それが完全に調和して、日本民族の酒の神様、救いの神様になっているのです。『古事記』や『日本書紀』を読むと、日本の古代史というのは和の歴史そのものであり、日本は大和の国であることがわかります。

●和を以て貴しと為す

 「和」を一躍有名にしたのが、かの聖徳太子です。太子の十七条憲法の冒頭には「和を以て貴しと為す」と書かれています。
 聖徳太子は、574年に用明天皇の皇子として生まれました。本名は「厩戸皇子」ですが、多くの異名を持ちます。
 推古天皇の即位とともに皇太子となり、摂政として政治を行い、622年に没しています。内外の学問に通じ、『三経義疏』を著わしたとされます。
 また、仏教興隆に尽力し、多くの寺院を建立しました。平安時代以降は仏教保護者としての太子自身が信仰の対象となり、親鸞などは「和国の教主」と呼びました。しかし、太子は単なる仏教保護者ではありません。その真価は、神道・仏教・儒教の三大宗教を平和的に編集し、「和」の国家構想を描いたことにあります。

●「和」の宗教国家構想

 日本人の宗教感覚には、神道も仏教も儒教も入り込んでいます。よく、「日本教」などとも呼ばれますが、それを一種のハイブリッド宗教として見るなら、その宗祖とはブッダでも孔子もなく、やはり聖徳太子の名をあげなければならないでしょう。
 聖徳太子は、まさに宗教における偉大な編集者でした。儒教によって社会制度の調停をはかり、仏教によって人心の内的不安を解消する。すなわち心の部分を仏教で、社会の部分を儒教で、そして自然と人間の循環調停を神道が担う。3つの宗教がそれぞれ平和分担する「和」の宗教国家構想を説いたのです。
 この太子が行った宗教における編集作業は日本人の精神的伝統となり、鎌倉時代に起こった武士道、江戸時代の商人思想である石門心学、そして今日にいたるまで日本人の生活習慣に根づいている冠婚葬祭といったように、さまざまな形で開花していきました。

●「和」は平和思想そのもの

 十七条憲法の根幹は「和」です。しかもその「和」は、横の和だけではなく、縦の和をも含んでいるところにすごさがあります。上下左右全部の和というコンセプトは、すこぶる日本的な考えです。それゆえに日本では、多数少数に割り切って線引きする多数決主義、いわゆる西欧的民主主義流は根付かず、何事も根回しして調整する全員一致主義の国なのです。「和」は「平和」思想そのものです。
 「天の時は地の利に如かず。地の利は人の和に如かず」とは『孟子』の言葉です。天の時、つまりタイミングは立地条件には及びません。しかし、立地条件も「人の和」には及ばないという意味です。人の和がなかったら、会社の発展もありません。組織の結束力を高めることは、仕事を成功させることにおいて非常に大事なのです。

●「和」のルーツは孔子

 『孟子』が出てきましたが、じつは「和」はメイド・イン・ジャパンではありません。
 聖徳太子の「和を以って貴しと為す」は太子のオリジナルではなく、『論語』に由来するのです。「礼の用は和を貴しと為す」が学而篇にあります。「礼のはたらきとしては調和が貴いのである」の意味です。聖徳太子に先んじて孔子がいたわけですね。
 孔子といえば、10月21日に開催された第4回「孔子文化賞」授与式典において、佐久間会長が「孔子経営者賞」を、天道館が「孔子伝播賞」を受賞しました。わたし自身は、歴代の「孔子文化賞」の受賞者を代表して、同式典の開会の辞を述べました。
 いよいよ11月になりました。18日には、創立49周年記念式典を行います。これからも「和のこえ」で心を一つにし、サンレーグループは前進します。

 神の道 仏の道に 人の道
     三つの道をわれらが結び  庸軒