2016
08
株式会社サンレー

 代表取締役社長

  佐久間庸和

「日本仏教の本質とは

 グリーフケア文化装置だ!」

●8月は死者を想う季節

 今年も8月がやってきました。日本人全体が死者を思い出す季節です。 6日の広島原爆記念日、9日の長崎原爆記念日、12日の御巣鷹山の日航機墜落事故の日、そして15日の終戦記念日というふうに、3日置きに日本人にとって忘れられない日が訪れるからです。
 そして、それはまさに日本人にとって最も大規模な先祖供養の季節である「お盆」の時期とも重なります。まさに8月は「死者を想う季節」と言えるでしょう。
 さて、先月はさまざまな出来事がありました。まず7月6日、横浜でトークショーに出演しました。パシフィコ横浜で開催された「フューネラルビジネスフェア2016」で、仏教界きっての論客で知られる村山博雅老師と「葬送儀礼の力を問う~葬儀の本質とは」をテーマに対談したのです。

●葬式仏教とグリーフケア

 村山老師は、全日本仏教青年会の第18代理事長として活躍され、2014年に「第1回世界仏教優秀指導者賞」も受賞されている日本仏教のニューリーダーの1人です。わたしは「第2回孔子文化賞」を受賞しているので、「ブッダと孔子の代理対談のようですね」などと言う方もいました。
 本番前の打ち合わせから、村山老師とは多様なテーマでお話させていただきました。わたしは、「無縁社会」や「葬式は、要らない」などの言葉が登場した背景には、日本仏教界の制度疲労にも一因があるように感じると申し上げました。
 よく「葬式仏教」とか「先祖供養仏教」とか言われますが、日本の仏教が葬儀と先祖供養によって社会的機能を果たし、また一般庶民の宗教的欲求に応えてきたという歴史的事実を認めないわけにはいきません。

●初盆のヒーリング・パワー

 一般庶民の宗教的欲求とは、自身の「死後の安心」であり、先祖をはじめとした「死者の供養」に尽きるでしょう。「葬式仏教」は、一種のグリーフケア文化装置でした。
 対話の中では東日本大震災の話題も出ました。2011年の夏、東北の被災地は震災の犠牲者の「初盆」を迎えました。この「初盆」は、生き残った被災者の心のケアという側面から見ても非常に重要です。
 通夜、告別式、初七日、四十九日と続く、日本仏教における一連の死者儀礼の流れにおいて、初盆は1つのクライマックスでもあります。日本における最大のグリーフケア・システムと言ってもよいでしょう。
 多くの被災者の方々の悲しみも、大災害の発生から5ヵ月後に訪れた初盆で少しでも軽くなったのではないでしょうか。

●仏教の供養は先人の知恵

 7月20日、わたしは上智大学グリーフケア研究所で「葬儀」と「グリーフケア」の連続講義を行いました。前所長である髙木慶子先生は、著書『悲しんでいい』(NHK出版新書)で以下のように述べておられます。
 「日本では、仏式のお葬式が一般的です。私はクリスチャンですが、仏教の供養は悲嘆にある方の心を癒してくれる、先人の知恵だという気がします。大切な人が亡くなると、葬儀で送る前に、お通夜があります。ご遺体のそばにご遺族や親戚や知人が集まり、亡き人との別れを惜しみます。葬儀がすんだあとも、初七日、四十九日法要、一周忌、三回忌、七回忌、十三回忌と、供養が営まれます。このしきたりは、ご遺族の悲しみの心を癒すものでもあります」
 法要のたびに親戚が集まることによって、遺族に「亡き人のことを忘れてはいません」「残された家族のことをみんなで心にかけています」という思いを伝えているのです。まさに「こころ」の文化です。

●現在の葬儀における問題

 横浜の対談では、司会者から「現在の葬儀の簡略化・簡素化について」の質問があり、わたしは以下のように述べました。
 アマゾンの僧侶派遣サービスに対して全日本仏教会が抗議をされたようですが、あれはスルーするというか、放置しておけば良かったと思います。社会に必要なものは残るし、必要でないものは残りません。
 執拗に互助会批判を繰り返す業界もあるようですが、互助会は社会に必要とされたために現在でも隆盛を誇っています。現代日本の仏教界を見てみると、檀家の暮らしぶりに応じて、高額な「御布施」「戒名料」を提示されるお寺も少なくないようです。
 むしろアマゾンの僧侶派遣、イオンの寺院紹介の方が明瞭かつ低額で良心的と考えている消費者もいるかもしれません。

●冠婚葬祭互助会の課題

 わたしは、このへんは、互助会の出番であると思います。せっかく多くの会員様がいらっしゃるのですから、各互助会は普段から会員様に対して積極的に情報公開し、理想的な葬儀についてのオリエンテーションを行うべきです。
 いま、冠婚葬祭互助会に与えられた課題は大きく2つあると思います。1つは「死者の尊厳を守る」ことであり、もう1つは高齢者を中心とした「生者のコミュニティをつくる」ことです。これは、そのまま日本復興にとっての重要なポイントとなります。
 今後も仏式葬儀は時代の影響を受けて変化せざるを得ませんが、原点、すなわち「初期設定」を再確認した上で、時代に合わせた改善、いわば「アップデート」を心掛ける努力が必要ではないでしょうか。
 初期設定といえば、仏式葬儀は村山老師も属される曹洞宗によって基本的なスタイルが確立され発展してきました。
 それでは、アップデートとは何でしょうか。まさか、アマゾンのお坊さん便ではないとは思いますが・・・・・・。

 日の本の仏の道は死別せし
      悲しみ癒す先人の知恵  庸軒