2019
3
株式会社サンレー

 代表取締役社長

  佐久間庸和

東日本大震災を経て

   いま、グリーフケアの時代へ

●平成最後の「3・11」
 3月になりました。今年も「3・11」がやってきます。東日本大震災の発生から8年目となる今年は、平成最後の「3・11」でもあります。その追悼式典にはわたしも参加することになりました。
 来月末で「平成」が終わりますが、30年におよぶ平成の歴史の中で、最大の出来事はやはり東日本大震災ではないでしょうか。
 2011年3月11日は、日本人にとって決して忘れることのできない日となりました。三陸沖の海底で起こった巨大な地震は、信じられないほどの高さの大津波を引き起こし、東北から関東にかけての太平洋岸の海沿いの街や村々に壊滅的な被害をもたらしました。
 福島の第一原子力発電所の事故も引き起こされました。亡くなった方の数は1万5897人、いまだ2533人の行方が分かっていません。さらには5万人以上の方々が今も避難生活を送っておられます。未曾有の大災害は現在進行形で続いているのです。

●「ない、ない」尽くしの状況
 大津波の発生後、しばらくは大量の遺体は発見されず、多くの行方不明者がいました。火葬場も壊れて通常の葬儀をあげることができず、現地では土葬が行われ、海の近くにあった墓も津波の濁流に流されました。
 葬儀ができない、遺体がない、墓がない、遺品がない、そして、気持ちのやり場がない・・・まさに「ない、ない」尽くしの状況は、東日本大震災のダメージがいかに甚大であり、辛うじて助かった被災者の方々の心にも大きなダメージが残されたことを示していたのです。
 現地では毎日、「人間の尊厳」が問われました。亡くなられた犠牲者の尊厳と、生き残った被災者の尊厳がともに問われ続けたのです。「葬式は、要らない」という妄言は、大津波とともに流れ去ってしまいました。

●グリーフケア活動の推進
 わたしは、東日本大震災で愛する人を亡くした人たちのことを考えました。そして、わが社が取り組んできたグリーフケア活動をさらに推進させ、上級心理カウンセラーの資格を多くの社員が取得しました。
 わたし自身も、さらにグリーフケアについての研究を重ねました。2012年7月には京都大学で「東日本大震災とグリーフケアについて」を報告する機会も与えていただきました。わたしにとって、まことに貴重な経験となりました。
 当時、わたしは京都大学こころの未来研究センターの連携研究員でしたが、この御縁で現在は上智大学グリーフケア研究所の客員教授を務めています。
 では、グリーフケアとは何か。わたしたちの人生とは喪失の連続であり、それによって多くの悲嘆が生まれます。
 大震災の被災者の方々は、いくつものものを喪失した、いわば多重喪失者です。家を失い、さまざまな財産を失い、仕事を失い、家族や友人を失いました。しかし、数ある悲嘆の中でも、愛する人の喪失による悲嘆の大きさは特別です。グリーフケアとは、この大きな悲しみを少しでも小さくするためにあるのです。

●グリーフケアの時代
 2010年6月、わが社では念願であったグリーフケア・サポートのための自助グループを立ち上げました。愛する人を亡くされた、ご遺族の方々のための会です。月光を慈悲のシンボルととらえ、「月あかりの会」という名前にしました。
 1995年、阪神・淡路大震災が発生しました。そのとき、被災者に対する善意の輪、隣人愛の輪が全国に広がりました。じつに、1年間で延べ137万人ものボランティアが支援活動に参加したそうです。ボランティア活動の意義が日本中に周知されたこの年は、「ボランティア元年」とも呼ばれます。
 16年後に起きた東日本大震災でも、ボランティアの人々の活動は被災地で大きな力となっています。そして、2011年は「グリーフケア元年」であったと言えるでしょう。
 グリーフケアとは広く「心のケア」に位置づけられますが、「心のケア」という言葉が一般的に使われるようになったのは、阪神・淡路大震災以降だそうです。被災した方々、大切なものを失った人々の精神的なダメージが大きな社会問題となり、その苦しみをケアすることの大切さが訴えられたのでしょう。

●「Lemon」のメッセージ
 米津玄師が歌う「Lemon」という歌がありますが、今や知らない人がいないくらい有名です。MVがユーチューブで3億回以上再生されています。
 わたしは、この曲を昨年の紅白で初めて聴きましたが、まさに「グリーフケア・ソング」だと思いました。愛する人を亡くした人は誰でも、この歌の歌詞のように「夢ならば、どんなに良かったでしょう」と思うはずです。「いまだに、あなたのことを夢に見る」はずです。「戻らない幸せがあることを、最後にあなたが教えてくれた」とも思うでしょう。
 「今でも、あなたは私の光」という言葉も出てきますが、闇の中で光を見つける営みこそ「グリーフケア」ではないでしょうか。わが社の「サンレー」という社名には「太陽の光」という意味がありますが、これは心の暗闇を照らす太陽光のような存在でありたいという願いが込められています。そう、グリーフケアの実践と普及こそは、サンレーの大いなるミッションなのです。
 「Lemon」のような曲のMVが3億回以上も再生される現実に、わたしは「グリーフケアの時代」の到来を感じてしまいます。
 そして、その時代を拓くのは、わたしたちサンレーグループであると信じています。

 夢ならば良かったものと思うたび
        戻らぬ日々の幸せを知る  庸軒