人の道

 冠婚葬祭という営みの中核となるコンセプトは「礼」です。「礼」とは一般に考えられているようなマナーというよりも、むしろモラル、平たく言って「人の道」です。
 「礼」はもともと古代中国の宗教から社会規範、および社会システムにまで及ぶ巨大な取り決めの体系でした。「礼」は旧字体では「禮」と書かれますが、これは「履」の意味であり、人として履(ふ)みおこなうべきみちを意味しました。
 孔子が開いた儒教では、「仁義礼智忠信孝悌」のように徳目の一つとして、「礼」を礼儀とかマナーの意に落ち着かせようとしました。それも確かに「礼」の一部であり、後に日本に入って、小笠原流礼法として開花したことはよく知られています。
 また儒教は、他者に対する思いやりとしての「仁」を最高の徳とし、「孝」の実践を最高義としました。朱子学では「仁」が徳の中心にあり、すべての徳を含む概念であるとさえしました。しかし、本来は「義智忠信孝悌」のほうが「礼」のなかに含まれていたものであり、決してその逆ではありません。「仁」は孔子が自らの理想の、新しい何かを表現しようとして採用した特別な言葉です。「仁」の概念こそ、もともとは「礼」のなかにあったと言えるでしょう。倫理道徳、各種の祭祀、先祖供養、歴史、人間の集団における序列の意味などはすべて「礼」のなかにあったのです!
 私は、人の道つまりモラルとしての礼を「大礼」、礼儀作法つまりマナーとしての礼を「小礼」としています。そして、人の道のなかで最も重要な最優先すべきものは、親の葬礼であると孟子は断言しています。親の葬礼を行なうことこそは、すべての「礼」の中心となる行為であり、「人の道」を堂々と歩むことに他ならないのです。冠婚葬祭互助会の商品とは、お客さまに僅かな掛け金で「人の道」を立派に歩んでいただくお手伝いです。人間が「人の道」を踏み外すことほど悲劇的で気の毒なことはありませんから、それを未然に防ぐことは「人助け」でもあるのです。

一条真也
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