第4回
一条真也
「高齢者には敬意をもって接すべし」

 

 介護を必要とされる方の多くは高齢者だと思います。私たちは、高齢者に対してどう接するべきでしょうか。
 超高齢社会などと言われ、世界各国で高齢者が増えてきています。特に日本は世界一高齢化が進んでいる国とされています。しかし、どうもこの国には、高齢化が進行することを否定的にとらえたり、高齢者が多いことを恥じたりする風潮があるようです。ほとんどの人は「老い」を嫌い、「若さ」を好んでいる。そして、いつしか高齢者にとって「老い」は「負い」となる。
 ところが、人類がつねに「老い」を嫌い、「若さ」を好んできたわけではありません。若いことが喜ばれたのは古代と近代だけの特色で、そのあいだの中世では逆に「老い」が好まれました。たとえば、洋の東西を問わず、聖者の像は年齢以上に老(ふ)けて描かれています。老けて見えることは、神の恩寵には必要なことであり、聖者たるべき者は経験と知恵を備えるべきだと思われていたのです。
 私は古今東西の人物のなかで孔子を最も尊敬していますが、彼の言行録である『論語』には次の有名な言葉が出てきます。
 「われ十有五にして学ぶに志し、三十にして立つ。四十にして惑(まど)わず。五十にして天命を知る。六十にして耳順(したが)う。七十にして心の欲する所に従って矩(のり)を踰(こ)えず」
 60になって人の言葉が素直に聞くことができ、たとえ自分と違う意見であっても反発しない。70になると自分の思うままに自由にふるまって、それでいて道を踏み外さないようになった。ここには、孔子が「老い」を衰退ではなく、逆に人間的完成としてとらえる思想が明らかにされています。
 まさに、人は老いるほど豊かになるのです。
 高齢者とは、あなたの未来です。ぜひ、人生の先輩に対して敬意をもって接して下さい。そして、もし「老い」を「負い」として感じている高齢者がいたら、その人に「人は老いるほど豊かになる」ことを教えてあげて下さい。