第3回
一条真也
「自然」

 

 「千の風になって」という歌が生まれた背景をご存じですか?この詩をもっと深く理解してゆくと、「死」についての考えが変わるかもしれません。

●あなたのすぐそばに

 「千の風になって」という歌が流行しました。これはもともと作者不明のわずか十二行の英語の詩でした。現代は「I am a thousand winds」で、欧米では以前からかなり有名でした。
 1977年にアメリカの映画監督の葬儀で朗読され、マリリン・モンローの二十五回忌のときも追悼式で朗読されました。日本でも出版社を経営する星山佳須也さんがこの詩に大きな感銘を受け、1995年に出版しています。
 その時、息子さんを自殺で失い喪失の悲しみから立ち直ることができなかったノンフィクション作家の柳田邦夫さんがこの詩に巡り合い、初めて癒されたと実感したそうです。
 以来、阪神・淡路大震災の被災者をはじめ、愛する人を亡くした人々向けに講演で朗読し続けると、そこに集まった人々の口コミで日本中に広まっていきました。
 そしてある追悼文集でこの詩と出会い衝撃を受けたのが、作家の新井満さんです。新井さんはこの詩には不思議な力があり、それが読む者の魂を揺さぶり、浄化し、忘れていたとても大切なことを思い出させてくれると感じ、自身による新訳にメロディーをつけ発表しました。それが「千の風になって」です。

●まさに日本人の祖霊観

 原作者について新井さんはネイティブ・アメリカンではないかと推理しています。この詩によく似たフレーズをアメリカ先住民族の伝承の中に見るからです。
 例えば、こんな詩も残っています。
 「長い間、わたしは君とともに生きてきた。そして今、わたしたちは別々に行かなければならない、一緒になるために。恐らくわたしは風になって、君の静かな水面を曇らせるだろう。君が自分の顔を、あまりしげしげと見ないように。(中略)恐らくわたしは新しい山になるだろう、君にいつでも帰る家があるように。」 ※(「今日は死ぬのにもってこいの日」N・ウッド著 金関寿夫訳 めるくまーる)
 実は日本人の祖霊観も、きわめて「千の風になって」の世界に近いものです。死者は近くの山や森林に上がってそこから子孫を見守る。そして風や光や雪や雨となって、子孫を助ける。正月には「年神さま」、お盆には「ご先祖さま」というかたちで愛する子孫を守ってくれる。
 死者は遠い世界ではなく、残されたもののすぐ近くの自然の中にいるのです。だから風が吹いたら、雨や雪が降ったら思い出してください。
 あなたの愛する死者はいつもあなたの近くにいます。