第7回
一条真也
『ハリー・ポッターと死の秘宝』(上・下)

 J・K・ローリング著(静山社)

 言わずと知れた世界的大ベストセラー「ハリー・ポッター」シリーズの最終巻です。この新時代のファンタジーは全世界で3億冊も読まれたそうで、すでに古典の風格さえあり、「現代の聖書」と呼ぶ人さえいます。
 このシリーズが歴史的ベストセラーになった最大の要因として「ホグワーツ魔法魔術学校」の存在があると思います。魔女や魔法使いになるために教育を受けなければならないという設定は非常に説得力があります。このシリーズが現れるまで、ファンタジー文学に登場する人物はふつうの人間と魔女・魔法使いとに二分されていました。
 作者のローリングは、ふつうの人間でもいくばくかの才能があり、良い教育を受けることができれば、魔女や魔法使いになれるという設定を考案しました。まるで、スポーツ選手や芸術家になるのと同じように。これこそ、ファンタジー文学にとって大きな躍進でした。しっかりした教育を受けていない、あるいは訓練を怠った魔女・魔法使いは、ただの人間にすぎません。
 じつは、わたしは常々、接客サービス業に携わる人間とは「魔法使い」をめざすべきだと言っています。以前ご紹介したサン=テグジュペリの『星の王子さま』には、「本当に大切なものは、目には見えない」という言葉が出てきます。本当に大切なものとは、思いやり・感謝・感動・癒し、といった「こころ」の働きだと思います。
 そして、接客サービス業とは、挨拶・お辞儀・笑顔・愛語などの魔法によって、それを目に見える形にできる仕事ではないかと思うのです。
 もちろん、それらのホスピタリティ・スキルを身につけるのには教育と自らの訓練が必要になります。『星の王子さま』で示された「本当に大切なもの」が、『ハリー・ポッター』の方法論で目に見える形になるなんて、なんと素敵なことでしょうか!
 この最終巻を読めば、これまでに張られていた伏線から主要人物のその後まで、すべてが明らかになります。21世紀、魔法について書かれた本が世界中で読まれること自体が、最大の魔法ではないかと思います。