第14回
一条真也
『おかあさんのばか』

 細江英公 写真 古田幸 被写体と詩(窓社)

 5月の第2日曜日は「母の日」です。今年は5月10日ですが、わたしの誕生日とちょうど同じです。46年前も同日でした。もともと、誕生日も「母の日」も本質は一緒ではないでしょうか。つまり、ともに自分を産んでくれた母親に感謝する日だということです。
 そこで今回は、「母」をテーマにした本をご紹介したいと思います。今から45年前も昔、昭和39年に作られた写真集です。被写体は、小学六年生(当時)の吉田幸ちゃんです。
 彼女の写真と詩がたくさん収められていますが、その最初の詩は次のような内容です。
 「私のおかあさんは/一ヵ月前に/のう出血という/おそろしい病気で死んだ/このごろおかあさんの/夢ばかりみる/さいだんの前にすわって/にらみつけたりする/友だちのおばさんにあうと/おかあさんていいなあと/急に思い出してしまう/おかあさんは病院で/目をあけた時もあった/その時おかあさんは/なみだを流して/ないていた」
 そうです。幸ちゃんは、大好きなお母さんを脳出血でなくしたのです。そのため、学校の先生をしているお父さんと中学生のお兄ちゃんとの3人の生活が始まります。家の中でただ一人の女手となった幸ちゃんは、「おかあさんのかわりに/うちの中を/明るくしなくちゃ」と思って、家事をはじめ健気にいろいろと頑張ります。
 でも、やはり寂しさ、悲しさを消すことはできません。幼い自分を残して旅立った母親に対して、つい「おかあさんのばか」と言いたくなるのです。わたしは、最初の詩からもう涙腺がゆるんでしまい、本を閉じ終えるまでボロボロと涙を流し続けました。
 細江英公による写真もどれも素晴らしく、なつかしい昭和の風景がよみがえってきます。巻末には、40年後の幸さんの短い手記が添えられていて、「理解ある夫と2人の子供と幸せにくらしています」と書かれています。幼くして母を亡くした幸さんは、自らが母となったのです。本当に良かった!ここで、また涙。
 こんなに母親の有難さが身に沁みる本はありません。「母の日」に、ぜひ親子でお読みください。