第18回
一条真也
『センス・オブ・ワンダー』

 レイチェル・カーソン著 上遠恵子訳(新潮社)

 先日、7月22日には今世紀最長といわれる皆既日食が日本国土で見られました。神秘的な天体ショーを見上げながら、わたしは一冊の本のタイトルをつぶやいていました。今回は、その本をご紹介します。わたしが何度も読み返している大切な本です。
 著者のレイチェル・カーソンは、海洋生物学者でもあったアメリカの女流作家です。環境の汚染と破壊の実態を世界にさきがけて告発した『沈黙の春』の著者として知られていますが、人生最後のメッセージとして『センス・オブ・ワンダー』という、すばらしい小著を残しました。
 美しいもの、未知なもの、神秘的なものに目を見張り、人間を超えた存在を認識し、おそれ、驚嘆する感性、すなわち「センス・オブ・ワンダー」を育んで、かつ強めていくことの意義をおだやかに説いた本です。
 カーソンは言います。地球の美しさと神秘を感じとれる人は、科学者であろうとなかろうと、人生に飽きて疲れたり、孤独にさいなまれることは決してない、と。たとえ生活のなかで苦しみや心配ごとに出会ったとしても、必ずや、内面的な満足感と、生きていることへの新たな喜びへ通じる小道を見つけ出すことができる、と。
 そして、地球の美しさについて深く思いをめぐらせる人は、生命の終わりの瞬間まで、生き生きとした精神力を保ちつづけることができるとして、彼女は次のように語ります。  「鳥の渡り、潮の満ち干、春を待つ固い蕾のなかには、それ自体の美しさと同時に、象徴的な美と神秘が隠されています。自然がくりかえすリフレイン―夜の次に朝がきて、冬が去れば春になるという確かさ―のなかには、限りなく私たちを癒してくれる何かがあるのです」
 自然にふれるという終わりのない喜びを、今回の皆既日食でも存分に感じることができました。だいたい、大きさがまったく違う太陽と月が完全に重なり合うなんて、まさに奇跡としか表現できません。太陽と月、大地と海、そして驚きに満ちた生命たち...センス・オブ・ワンダーさえあれば、世界はいつも輝いています。