第39回
一条真也
『銀河鉄道の夜』宮沢賢治著(新潮文庫ほか)

 

 3月11日、日本に未曾有の大災害が起こりました。東日本大震災です。13,000人を超える人々が亡くなりました。
 この大量死を前にして、日本人がぜひ読むべき童話があります。壊滅的な被害を受けた岩手県が生んだ宮沢賢治の名作『銀河鉄道の夜』です。
 この物語を知らない人は少ないでしょうが、その真の意味を知っている人もまた少ないでしょう。この物語の正体とは、一種のシャーマンであった賢治が書いた大いなる臨死体験の物語なのです。
 まず、簡単にストーリーを追ってみます。星まつりの夜、少年ジョバンニは不思議な汽車に乗り込みます。彼には、自分の降りる駅も、なぜこの汽車に乗り合わせたのかもわかっていません。でも、友人のカムパネルラはそれを知っています。
 人がまばらだった汽車には、いくつかの駅を通過するにつれて、さまざまな人々が乗ってきます。じつは、彼らは死者であり、この銀河鉄道は死者たちを運ぶ汽車だったのです。カムパネルラはすでに死んでおり、死後の世界へと旅立っていたのです。賢治はこの世界を「幻想第四次の世界」と呼んでいます。
 銀河鉄道の乗客でただ一人だけ死んでいないのが、ジョバンニです。だから彼は自分の降りる駅を知りません。死者の降りる駅は、彼らの生前の行ないに対して決まるもので、各人が異なります。
 そして、本人が希望すれば、天上でもどこでも自由に行けるのです。すなわち、生きているうちはどんな可能性でもあるということです。天上へさえ行ける切符というのは、努力次第で天上に行けるほどのレベルまで自分が成長することができるということなのです。
 『銀河鉄道の夜』とは臨死体験の物語なのです。この作品は、死が霊的な宇宙旅行であり、死者の魂は宇宙へ帰ってゆくという真実をうまく表現しています。
 さらに何よりも重要なことは、ジョバンニが死後の世界からの帰還後、「ほんとうの幸福」に気づいて、その追求を決意する点です。それは、賢治が影響を受けたというメーテルリンクの『青い鳥』のチルチルとミチルの気づきと同じでした。
 「死」について説明するとき、「宗教」や「哲学」や「科学」という方法があります。でも、その他に「物語」という方法があることを本書は教えてくれます。読者は、この物語によって「死とは何か」を知るでしょう。
 東日本大震災で亡くなった方々が銀河鉄道に乗って、「ほんとうの幸福」が待つ場所へと無事に行けますように。