第59回
一条真也
『僕の死に方』金子哲雄著(小学館)

 

 著者は人気の流通ジャーナリストでしたが、2012年10月、「肺カルチノイド」という急性の難病により、41歳の若さで急逝しました。
 カルチノイドは、医学的に「ガンもどき」を意味します。発症率10万人に一人という奇病ですが、早期発見、早期治療で治癒する可能性が高いとされています。しかし、発見が遅かったり、再発や転移があったりして、いわゆる三大治療(手術・抗がん剤・放射線)が受けられない状態の患者さんがいます。著者は、まさにその状態でした。もはや有効な治療法がなかったのです。
 入退院を繰り返しながら仕事を続けてきた著者は、最期は「自宅で家族に看取られたい」と希望しました。自分の死期を悟った著者は、自分の葬儀を自分でプロデュースすることを思いつきます。彼は、なんと会葬礼状まで生前に用意して、自らの葬儀をも「流通ジャーナリスト」としての情報発信の場にしたのでした。そのプロ根性には、「お見事!」という他ありません。
 しかし、「今すぐ死んでも驚かない」と医師に告げられた著者が「余命ゼロ」宣告を受け入れて死の準備を整えるまでには、さまざまな葛藤がありました。
 仕事が順調であるにもかかわらず人生を卒業しなければならない悔しさ、夭折した姉や妹や弟たちの分まで生きることができなくなった悲しみ、そして何より、最愛の妻を残していくこと・・・。
 ようやく死を受け入れた著者は、本を書くことを決心します。担当編集者には、「40代で死ぬということがどういうことか、妻に何を残せるのか、気持ちにどんな変化が起きるのか」といったことを書き残したいと言いました。
 そして、死の一か月前から、最後の力を振り絞って本書を書き上げます。なんとか脱稿した後、妻が見守る中、著者は静かに息を引き取ったのでした。
 本書には、死を目前にした人間の心境が赤裸々に綴られています。自らの死の準備をし、その過程を書いた著者の覚悟と勇気には心から敬意を表します。
 特に、著者が自身の葬儀の準備を粛々と進める姿には多くの人が感動するのではないでしょうか。自分の葬儀について考えることは、自分の人生に責任を持つことです。そして、何よりも自分の「生」を肯定することです。
 「終活」という言葉が流行していますが、著者の葬儀のように、「あの人らしかったね」と言われるような人生の卒業式が今後は増えていく予感がします。