第78回
一条真也
『人間尊重の「かたち」』佐久間進著 (PHP研究所)

 

 著者はサンレーグループ会長であり、わたしの父でもあります。じつの父親の本を紹介するのは正直言って気が引けますが、ぜひ多くの方々に読んでいただきたい内容ですので、どうかご理解下さい。
 著者が創業した冠婚葬祭会社では、「人間尊重」を経営の基本理念に掲げています。今から50年前、著者がまだ若かった頃「人間尊重」の思想を知りました。
 「社会とは人間が集まってできたものであるから、人間は互いに仲良くすること、そして力を合わせることが大切です。それは人間の尊厳だからです。平和の基です。人間の美しさでもあります。私はそれを人間尊重と言っております」
 この言葉は、北九州市門司港から身を起こし、「世界の石油王」とまで言われた出光佐三のものです。出光の資料館でこの言葉に出合った書著は感動を覚え、事業に活かしてきました。
 著者は、「まえがき」で、「私の人生を振り返る時、礼の実践を通して、『人間尊重』とはどういう『かたち』になるのかを社会経営、社会貢献の中で目指してきたのではないか、そんな思いがしています」と述べています。
 また、「人間尊重とは、人と人とがお互いに仲良くし、力を合わせることです」と語り、互いに助け譲り合う「互譲互助」「和」の精神こそが日本人の精神形成の基になっていると訴えます。
 いま、日本では「無縁社会」などという言葉が取り沙汰されるほど人間関係の希薄さが進行しています。著者も「このままでは、日本は、日本人はダメになってしまうのではないか」と危惧していました。ところが、あの東日本大震災の発生後、日本は素晴らしい国民性を持っていることを再確認したといいます。
 あれだけの震災を受け、自分自身がこの先どうなるか分からない、死ぬかもしれない中で、暴動や略奪が起こらず、お互いが助け合い・支え合い・励まし合って生きようとする見事な姿勢。あれだけ追い詰められて先が見通せない時に秩序を守り、礼儀正しく、一杯の炊き出しごはんをいただくにもきちんと整列して何時間でも待っている姿。そこに、日本人の素晴らしさが発揮されたのです。
 かつて「絆」を大切にしてきた日本人の心が覚醒し、お互いに助け合うこと、支え合うことが再認識されました。
 著者は「助け合い」から「支え合い」へ・・・冠婚葬祭を通して、もう一度人と人との絆を結び直したいと述べています。
 わたし自身、本書のはしばしから「世の中を良くしたい」という父の強い願いが伝わってきました。ご一読下されば幸いです。