第26回
一条真也
「人間の本性は善きものだ」孟子

 

 言葉は、人生をも変えうる力を持っています。今回は、儒教を開いた孔子の最大の後継者といえる孟子の言葉です。
 孟子は、人間誰しも、あわれみの心を持っていると述べました。
 幼い子どもが井戸に近づいて行くのを見かけたとします。誰でもハッとして、井戸に落ちたらかわいそうだと思い、救ってやろうと思います。それは別に、子どもを救った縁でその親と近づきになりたいと思ったためではありません。人にほめてもらうためでもなく、救わなければ非難されることが怖いためでもありません。
 かわいそうだと思う心は、人間誰しも備えているものです。さらに、悪を恥じ憎む心、譲りあいの心、善悪を判断する心も、人間なら誰にも備わっているものです。
 かわいそうだと思う心は「仁」の芽生え、悪を恥じ憎む心は「義」の芽生え、譲りあいの心は「礼」の芽生え、善悪を判断する心は「智」の芽生えである。人は生まれながら手足を4本持っているように、この4つの芽生えを備えている。これが有名な「性善説」の根拠となった「四端の説」です。
 孟子は「人間の本性は善きものだ」という揺るぎない信念を持っていたのです。