2016
05
株式会社サンレー

 代表取締役社長

  佐久間庸和

「熊本地震の発生に思う

 冠婚葬祭で世直しをしよう!」

●熊本地震の発生

 このたびの熊本県で始まった地震活動は阿蘇地方や大分県に広がり、被害が拡大しました。熊本で14日夜、益城町でM6.5の地震が起きた後、16日未明にM7.3の地震が発生、これは1995年の阪神大震災に匹敵する規模です。
 この地震により、お亡くなりになられた方々のご冥福をお祈り申し上げますとともに、被災された方々の不安や心配や苦悩が少しでも軽減されることを心からお祈りいたします。
 わたしは2014年6月に全国冠婚葬祭互助会連盟(全互連)の会長に就任しましたが、その場所がまさに熊本でしたので、非常に複雑な心境です。今回の被害状況を踏まえ、全互連では人道的な見地に立ち、微力ながら可能な限りの支援を行わせていただくと同時に、一刻も早い復興を心よりお祈り申し上げます。
 それにしても、今回の地震では改めて自然の脅威を嫌というほど思い知らされました。

●自然と人間

 よく、「自然を守ろう」とか「地球にやさしく」などと言います。しかし、それがいかに傲慢な発想であるかがわかります。やさしくするどころか、自然の気まぐれで人間は生きていられるのです。生殺与奪権は人間にではなく、自然の側にあるということです。
 日本人固有の信仰といえば、神道です。神道とは何か。 日本を代表する宗教哲学者にして神道ソングライターであり、また神主でもある鎌田東二先生は、著書『神道とは何か』(PHP新書)で次のように述べています。 「さし昇ってくる朝日に手を合わす。森の主の住む大きな楠にも手を合わす。台風にも火山の噴火にも大地震にも、自然が与える偉大な力を感じとって手を合わす心。どれだけ科学技術が発達したとしても、火山の噴火や地震が起こるのをなくすことはできない。それは地球という、この自然の営みのリズムそのものの発動だからである。」

●世直しの思想

 鎌田先生は、ご自身の一番やりたいことは「世直し」だとされています。それは元号が「平成」になった頃からだそうです。
 「平成」の典拠は『書経』の「地平天成」あるいは『史記』の「内平外成」などと言われています。しかし、鎌田先生によれば、「平成」という時代は、その典拠の趣意から大きく外れているといいます。「地平天成」「内平外成」どころか「地動天乱」「内動外乱」の大動乱の時代になったというのです。
 鎌田先生は、現代の日本は「大中世」とも言うべき激動と混迷の乱世の時代であると訴えます。鎌田先生は著書『世直しの思想』(春秋社)で以下のように述べます。
「わたしが主張する現代大中世論とは、一言で言えば、4つのチ縁の崩壊現象とそれを踏まえた再建への課題を指している。それはまず、地縁・血縁・知縁・霊縁という4つのチ縁の崩壊現象として現れてくる」

●無縁社会を超えて

 さらに鎌田先生は以下のように述べます。
「限界集落を抱える地域共同体やコミュニティの崩壊。家族の絆の希薄化と崩壊。知識や情報の揺らぎと不確定さ。『葬式は要らない』とか『無縁社会』と呼ばれるような先祖祭祀や祖先崇拝などの観念や紐帯や儀礼が意味と力を持たなくなった状況。物質的基盤から霊的・スピリチュアルなつながりまで、すべてのレベルでチ縁が崩落し、新たな効果的な再建策やグランドデザインを生み出せないでいるのが今日の現状である」
 この発言には、まったく同感です。わたしも、「葬式は、要らない」や「無縁社会」などは亡国のキーワードであると思っていました。そのようなところへ、2011年3月11日に東日本大震災が発生しました。

●東日本大震災と「人間尊重」

 「葬式は、要らない」「無縁社会」といった妄言は、M9の大地震が粉々に砕き、大津波が流し去ってしまった観がありました。
 遺体も見つからない状況下の被災地で、多くの方々は「普通に葬儀をあげられることは、どんなに幸せなことか」と痛感しました。やはり、葬儀は人間の尊厳に関わる厳粛な儀式であり、遺族の心のバランスを保つために必要な文化装置であると確信します。
 さて、「儀式」は「祭り」とも不可分の関係にありますが、そのルーツはどこにあるのでしょうか。鎌田先生によれば、「神楽」という芸能的要素を交えて神々の御霊を慰め、怒りや崇りを鎮める所作、それが祭祀の原型だそうです。そして、それは「天岩戸」という洞窟の前で行われた神々の祭り・儀式です。
 「天岩戸」という洞窟空間は死と再生という両極のはたらきと運動をもたらす両義的空間であり、墓場にして産屋、死と生の融合した原初空間と言えるでしょう。

●冠婚葬祭こそ世直し

 まさに、この「天の岩戸」から儀式は生まれたのです。「世直し」とは「岩戸開き」のこと。すなわち、暗い闇に陽光(サンレー)を射し込ませることなのです。いま、被災地では「助け合い」の動きが活発化しています。地元の飲食店は無料で食料を提供し、人々は炊き出しでおにぎりなどを作り続けました。
 東日本大震災で到来した「隣人の時代」の再来です。今また、多くの人々が隣人愛を発揮しています。互いが支え合い、助け合うことは、じつは人類の本能なのです。「隣人愛」とは互助会のコンセプトである「相互扶助」につながります。
 そして、わたしたちは冠婚葬祭という儀式のお手伝いこそ、「こころ」に「かたち」を与え、社会を明るくする世直しであると知らなければなりません。日々の仕事が、そのまま「世直し」となるなんて素敵ですね!


 岩戸開(あ)き世を照らし出す陽の光
        儀式で拓(ひら)く世直しの道  庸軒