第103回
一条真也
『悔いのない人生』齋藤孝著(SB新書)

 

 「量産作家」という言葉があります。
 なんとなく「粗製濫造」の悪いイメージがありますね。しかし、多作でありながら、つねに質の高い著作を上梓し続けている人は実在します。明治大学文学部教授の齋藤孝氏はその代表例ではないでしょうか。教育学の第一人者である齋藤氏は、読書教育を非常に重視しています。名著『読書力』(岩波新書)をはじめ、「読書」や「教養」に関する多くの著書がありますが、わたしはほとんど読ませていただき、共感しました。
 今回ご紹介する『悔いのない人生』は、「死に方から生き方を学ぶ『死生学』」というサブタイトルがついています。これはまさに、わたし自身が日頃から考え、取り組んでいるテーマであります。
 本書では、吉田松陰の『留魂録』、山本常朝の『葉隠』、貝原益軒の『養生訓』、正岡子規の『病床六尺』、V・E・フランクルの『夜と霧』、『きけわだつみのこえ』、西郷隆盛の『西郷南洲遺訓』 、宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』、そして『古事記』といった古今の名作を取り上げ、そこから「死に方」と「生き方」を学びます。
 特に、わたしが興味深く感じたのは、『銀河鉄道の夜』を取り上げたくだりで、著者は以下のように述べています。
「銀河を走る鉄道があって、そこに乗っていくというイメージは、日本人の死生観に新しいイメージを付け加えたと思います。もともと日本には人が死んで星になるというイメージはあまりありませんでした。先ほど述べたように山をはじめとしてもう少し身近なところで済ませていたのです。そうしたところへ、賢治は『銀河鉄道』という壮大なイメージのなかで死者を悼む旅を繰り広げました」
 たしかに、日本人に「人が死んで星になる」という美しいイメージを与えたのは賢治かもしれません。わたしは現在、日本における葬送イノベーションとして、「海洋葬」、「樹木葬」、「天空葬」、「月面葬」の「四大永遠葬」というものを提案しています。
 日本人の他界観を大きく分類すると、「海」「山」「星」「月」となりますが、それぞれが四大永遠葬に対応しているわけです。そして、「星」という他界観のルーツがまさに『銀河鉄道の夜』だったわけです。
 本書『悔いのない人生』は、著者の豊かな教養から死生観が説かれており、非常に共感できる内容でした。
 わたしはつねづね「死生観は究極の教養である」と言っているのですが、拙著『死が怖くなくなる読書』(現代書林)の帯のキャッチコピーとして使われています。こちらもご一読いただけると嬉しいです。