第110回
一条真也
『実践・快老生活』渡部昇一著(PHP新書)

 

 私淑する渡部昇一先生が逝去されました。「知の巨人」と呼ばれた、戦後日本言論界の第一人者でした。不肖の弟子ですが、謹んで哀悼の誠を捧げさせていただきます。
 わたしは膨大な数にのぼる先生の御本はほとんど拝読していますが、2014年夏、ご本人と対談させていただき、『永遠の知的生活』(実業之日本社)という共著を上梓できたことは望外の喜びでした。同書では、渡部先生の「余生を豊かに生きるヒント」がたっぷり紹介されています。
 人類の歴史の中で、ゲーテほど多くのことについて語り、またそれが後世に残されている人間はいないとされています。わたしは、ゲーテと同じく理想の知的生活を実現された、おそらく唯一の日本人であろう渡部先生に対して、『ゲーテとの対話』の著者エッカーマンのような心境でお話を伺いました。
 渡部先生は「95歳まで読書を続け、学び続ける」と宣言されていましたが、86歳で逝去されました。その晩年の生活について書かれたのが本書です。帯には物思いに耽る先生の顔写真とともに「ベストセラー『知的生活の方法』から40年」「86歳にして到達した『人生の至福』についての最終結論」「衰えぬ知的生活、家族、お金、健康、『あの世』のこと・・・」と書かれています。
 渡部先生は「歳をとってみないとわからないことがある」として、本書において、先生が到達しえた「人生の幸福」についての考え方、そして「快老生活」すなわち「快き老いの生活」の方法について、率直にレポートしておられます。
 「まだ86歳という歳に到達していない人には、何らかの参考になる部分もあるのではないかと思う」と書いていますが、本書のすべての内容が参考になりました。まさにこころ豊かに老いるためのバイブルです。
 中でも最もわたしの心に残った部分は、先生が「親の恩は子に送れ」として、「先祖代々続いてきたDNAを子供に確かに渡したという実感は、安心立命の基ともなる。凡人は、孫や曾孫がいれば特別に修行しなくとも大往生できる、というのは私の年来の確信である」と述べられ、さらに以下のように喝破されたところです。
「結婚式をやらずに籍を入れるだけの夫婦や、家族を呼ばないで友達で集まって会をする夫婦もいる。しかし、できるならば、少なくとも両家の家族親類が集まった披露宴はするべきである。ささやかな披露宴もできないような結婚をしてはいけないと思う」
 この「礼」の本質を説く言葉に、深い感動をおぼえました。わたしの座右の銘の1つとし、わが社の冠婚部門のスタッフにも伝えました。