第133回
一条真也
『震災と向き合う子どもたち』徳水博志著(新日本出版社)
 新しい「令和」の時代が始まりました。
 人々の胸には未来への明るい希望が膨らんでいるように思えますが、過ぎ去った「平成」の時代に起こった出来事の中には絶対に忘れてはならないものがあります。東日本大震災はその最も代表的なものでしょう。
 日本を襲った未曾有の大災害の記録である本書には「心のケアと地域づくりの記録」というサブタイトルがついています。著者は、1953年生まれ。宮城県石巻市立雄勝小学校の教員を10年務め、2014年3月に60歳で定年退職。現在、東北工業大学非常勤講師。著書に『森・川・海と人をつなぐ環境教育』(明治図書出版)があります。
 本書は、津波で地域が壊滅、家族はじめ多くの大切なものを失い、心に傷を負った子どもたちについて書かれた本です。その再生をめざす歩みは、教師と学校にとっても手探り、苦難の道でした。なお、舞台となった雄勝小学校は、津波で全壊し、108人いた児童が転校などで41人にまで減りました。
 また、著者自身も津波で家や親族を喪いましたが、子どもたちと共に俳句や作文、震災前の雄勝町のジオラマづくり、版画制作、町づくり活動への参加など、創作活動や地域とのつながりを通して徐々に元気を取り戻し、だんだんと立ち直っていきました。
 著者は、以下のように述べています。
「私という人間は、さまざまなつながり(関係性)で支えられてきました。(1)雄勝地域の自然とつながり、(2)地域コミュニティとつながり、(3)教師という職業で社会とつながり、(4)夫として妻とつながり、(5)父親として子どもとつながり、(6)義母とつながっており、そのさまざまなつながりに支えられて生きてきました」
 つまり、さまざまな≪関係性≫の集合が著者であり、わたしたち人間なのです。さらに、著者は「人間は一人で生きてはいません。さまざまなつながりに支えられて生きている『社会的存在』であり、多様なつながりをもった総体です。つまり喪失感情の本質とは、≪関係性の喪失≫であるという認識に到達したのです」と述べています。これは安易に言葉にされがちな「絆」という言葉の本質であり、「縁」という考え方にもつながります。
 現代日本は「無縁社会」などと呼ばれますが、それは誤りです。もともと人間はさまざまな縁に支えられており、社会とは最初から「有縁社会」なのですから。
 小学校の教員であった著者は「故郷の未来を見つめながら学ぶことが子どもにどんな力を与えるか、その心のケアには何が必要か」を考え続け、この国の現在と未来へ向かって、深く問いかけています。