2011
03
株式会社サンレー

代表取締役社長

佐久間 庸和

「自分だけの喜びを考えず

 人にも喜びを分け与えよう!」

チョコレートの秘密

 2月14日は、バレンタインデーでしたね。男性のみなさんは、チョコレートを貰いましたか?やはり、貰うと嬉しいですね。人と人の心を結びつける素敵なお菓子ですが、チョコレートがわたしたちの手元に届くまでには深刻な事情があります。
 『チョコレートの真実』(英知出版)という本があります。カナダの女性ジャーナリストであるキャロル・オフという人が書きました。帯に大書されている「カカオ農園で働く子供たちは、チョコレートを知らない」という言葉が本書の内容を端的に要約していると言えるでしょう。本書には、次のように書かれています。
 「私の国には学校へ向かいながらチョコレートをかじる子供がいて、ここには学校にも行けず、生きるために働かなければならない子供がいる。少年たちの瞳に映る問いは、両者の間の果てしない溝を浮かび上がらせる。なんと皮肉なことか。私の国で愛されている小さなお菓子。その生産に携わる子供たちは、そんな楽しみをまったく味わったことがない。おそらくこれからも味わうことはないだろう。これは私たちの生きている世界の裂け目を示している。カカオの実を収穫する手と、チョコレートに伸ばす手の間の溝は、埋めようもなく深い」(北村陽子訳)

コストは最小に、利益は最大に

 コートジボアールでは独裁政権が続いて、農民の利益はほとんどが搾取されています。そのような奴隷労働を排斥するために、「フェアトレード」というシステムが生まれましたが、多くの企業はひたすら利益を追求する大企業の関連会社となりました。そして、「フェアトレード」の定義そのものを変えてしまい、より安価に製品を市場に出そうと画策するようになりました。
 わたしたち日本人を含めた経済的に豊かな国々に安価で美味しいチョコレートを提供するために、西アフリカの子どもは奴隷的に働かされ、農民は最底辺の生活を強要されているのです。そして、大企業だけは儲かると言うお決まりの図式ですね。
 企業という存在には、「コストは最小に、利益は最大に」という命題が常に課せられます。そして、その命題は、南半球に多い発展途上国の一次産品を北半球に多い先進諸国が加工・消費するという図式で遂行されているというわけです。

「人を幸せにしたい」が志

 わたしも経営者ですので、常に「利益」というものを意識していますが、企業の利益を社会の利益とリンクさせることを忘れてはならないと思っています。
 企業にとって、最も大切なものは使命感と志です。そして、志とは何よりも「無私」であってこそ、その呼び名に値すると思います。吉田松陰の言葉に「志なき者は、虫(無志)である」というのがありますが、これをもじれば、「志ある者は、無私である」と言えるでしょう。平たく言えば、「自分が幸せになりたい」というのは夢であり、「世の多くの人々を幸せにしたい」というのが志です。夢は私、志は公に通じているのです。自分ではなく、世の多くの人々。「幸せになりたい」ではなく「幸せにしたい」、この違いが重要なのです。
 企業もしかり。もっとこの商品を買ってほしいとか、もっと売上げを伸ばしたいとか、株式を上場したいなどというのは、すべて私的利益に向いた夢にすぎません。真の志は、あくまで世のため人のために立てるものです。

死にゆく人にチョコレートを

 わたしは、マザー・テレサを心からリスペクトしています。彼女の偉大な活動のひとつに「死を待つ人の家」を中心とした看取りの行為がありました。マザー亡き後も、インドのカルカッタでは彼女の後継者たちが「死を待つ人の家」を守っています。
 死にゆく人々は栄養失調から来る衰弱死のため、たいていは苦悶の表情を浮かべて死んでいきます。しかし、いまわのきわに口に氷砂糖やチョコレートなどを含ませると、それまで苦しんでいた人がニッコリと笑って旅立ってゆくそうです。
 日本にはバレンタインデーで貰った義理チョコなどを食べきれずにいる男性も多いでしょう。ぜひ、そのようなチョコレートをインドの「死を待つ人の家」に送ってあげて、亡くなってゆく人の最期に口に含ませてあげることができればいいなと思います。

助け合い社会に向って

 わたしは、カカオ農園で働くアフリカの子どもたちにもチョコレートをお腹いっぱい食べさせてあげたいと思っています。
 彼らはチョコレートの存在そのものを知りません。自分たちの過酷な労働の結果、チョコレートという夢のように甘くて美味しいお菓子が誕生していることを知らないのです。
 もし彼らがチョコレートを味わえば、「自分たちは、人を幸せな気分にする素晴らしいものを作っている」ことに気づくでしょう。それは、彼らの「働きがい」、さらには「生きがい」にもつながるはずです。
 チョコレートという魔法のお菓子は、インドの死にゆく人々に「死にがい」を、アフリカの子どもたちに「生きがい」を与え、バレンタインデーにおいては日本人に「愛」や「感謝」の心を与えてくれます。
 アフリカの子どもたちや、インドの老人たちに、世界を輝かせる魔法のお菓子としてのチョコレートが行き渡る世界が実現することを願ってやみません。
 それこそ、「助け合い社会」としてのハートフル・ソサエティの実現です。そんな世界の創造にサンレーがお役に立てればと心から思います。

 人生に意味を与へる喜びを
    人にも分けて世界輝く  庸軒