2007
02
株式会社サンレー

代表取締役社長

佐久間 庸和

「愛する人を亡くした人へ

 悲しみを癒すグリーフワークを」

スピリチュアル・ブーム
 昨年来、スピリチュアル・ブームなるものが続いています。一種の霊能ブームですが、「スピリチュアルカウンセラー」と称するカリスマ霊能者が大変な人気を集めています。
 「霊」や「あの世」なら宗教でも説きますが、スピリチュアルカウンセラーには、恋愛や金運のような自己の欲望に関わる相談が多多く寄せられることが気になります。
 しかし、そんな中で大事な家族を亡くした人に対して、「ご主人は、あなたを見守っていますよ」とか「亡くなったお子さんは、あなたの隣で笑っていますよ」といったふうに、悲しみを癒す「物語」を提供していることは興味深く、これはある程度評価できるのではないかと私は思っています。
 考えてみれば、スピリチュアルの本場である英国で大ブームを起こしたのは第一次世界大戦の直後であり、戦争で愛する家族を失った遺族たちが何とか死者と会話をしたいと願って、霊媒による交霊会が流行したのでした。それほど、人は愛する者を失うと、茫然自失となり、心から癒しを求めるものなのです。

グリーフ・ワークの時代
 昨年の訓示でもお話しましたが、「癒し」が時代のキーワードになっています。
 日本では、阪神大震災後に被災者の心のケアという意味で「癒し」の言葉が頻繁に使われたことから一般的になったとされています。
 もちろん震災で遭遇したさまざまな恐怖のトラウマもありますが、被災者の最大の心の痛手は家族や友人・知人を震災で失ったことにありました。人間の心が最も悲鳴をあげるとき、それは愛する肉親や親しい人を亡くした時です。
 昨年末にテレビで「江原啓之スペシャル 天国からの手紙」という番組が放映されました。江原氏が、死者と会話して、そのメッセージを遺族に伝えるという内容です。この番組では、「スピリチュアル」に代わって「グリーフ」というキーワードが前面に出てきていました。私は、いよいよ来るべき時が来たなと感じました。
 「グリーフ」とは「悲しみ」という意味です。欧米の葬儀産業では、「グリーフワーク」というものが重要視されています。「喪の仕事」と訳されますが、つまり、遺族の悲しみを癒してあげることです。
 私は、今後の冠婚葬祭業、特に葬祭業においてはグリーフワークにいち早く取り組んだ会社が市場を制すると確信しています。単なるビジネスのみならず、これほど世のため人のためになることはありません。紫雲閣の一級葬祭ディレクターたちが、そのままグリーフカウンセラーになれば、サンレーは心の時代のトップ・カンパニーとなれるでしょう。
 それには別に「霊」を持ち出す必要はありません。世界の宗教、たとえば仏教やキリスト教の中には悲しみを癒すノウハウがたくさんあります。また、哲学や心理学や文学も大いに役に立つでしょう。
 昨年の紅白歌合戦で話題となった「千の風になって」がオリコン・チャートの一位を続けていますが、「私のお墓の前で泣かないでください」ではじまるこの歌も、愛する人を亡くした悲しみを癒す歌に他なりません。

愛する人を亡くすとは何か
 私は、まず私がグリーフワークの第一人者となる決意をし、それに関連する古今東西のありとあらゆる本を読破しました。実際に肉親を亡くされた方々の手記も読みました。毎晩のように貰い泣きした結果、私は、次のように思い至ったのです。
 親を亡くした人は、過去を失う。
 配偶者を亡くした人は、現在を失う。
 子どもを亡くした人は、未来を失う。
 恋人や親しい友人・知人を亡くした人は、自分の一部を失う。
 配偶者を亡くした人は立ち直るまでに平均3年を要し、わが子を亡くした人は10年を要するといいます。愛する者を亡くした時、それはまさに人間の心が最も「癒し」を必要とする非常事態であり、そのための「癒し」の装置として葬儀というものはあるのです。
 もちろん、通夜や告別式で、悲しんでいるお客様に慰めの言葉をかけてさしあげることは必要なことです。しかし、自分の考えを押し付けたり、相手がそっとしておいてほしい時に強引に言葉をかけるのは慎むべきです。ただ、黙って側にいてあげるだけのことがいいこともある。一緒に泣くことがいいこともある。微笑むことがいいこともある。

ブッダは、どう悲しみを癒したか
 ブッダには、こんなエピソードがあります。シュラーヴァスティーの町で、キサーゴータミーという女性が結婚して男子を産んだが、その子に死なれて気が狂った。死体を抱きしめながら蘇生の薬を求めて歩きまわる彼女の姿を見て、ブッダは、「まだ一度も死人を出したことのない家から芥子粒をもらってくるがよい。そうすれば、死んだ子は生き返るであろう」と教えた。一軒ずつ尋ねて歩いているうちに、死人を出さない家は一つもないことを悟った彼女はついに正気に戻れたというのです。
 ブッダは彼女を無理やり説き伏せたりせず、彼女自身に気づかせました。自然なかたちで彼女の心を癒したのです。
 紫雲閣のスタッフがグリーフワークの専門家になったとき、サンレーは「知識集約型産業」から「精神集約型産業」に進化するはずです。 

 何よりも愛するものを失ひて    
    途方に暮れる人ぞ悲しき  庸軒