2007
06
株式会社サンレー

代表取締役社長

佐久間 庸和

「江戸しぐさに学び

 サンレーしぐさをつくろう!」

●注目される江戸しぐさ
 先月も少し触れましたが、江戸しぐさが注目を集めています。東京の地下鉄の各駅にポスターが貼りめぐらされ、小中学校の道徳教育にも取り入れられているそうです。ついには、東京ディズニーリゾートのサービス・マニュアルにまで採用されました。いまやホスピタリティにおけるグローバルスタンダードと言えるかもしれません。
 江戸しぐさとは、いったい何か。それは、江戸の商人を中心とした町人たちのあいだで花開いた「思いやり」のかたちです。出逢う人すべてを「仏の化身」と考えていた江戸の人々は、失礼のないしぐさを身につけていました。譲り合いの心を大切にし、自分は一歩引いて相手を立てる。威張りもしなければ、こびることもしない。あくまでも対等な人間同士として、ごく自然に実践していたものが江戸しぐさなのです。
 しぐさとは、ふつうは「仕草」と書きますが、江戸しぐさの場合は「思草」と書きます。「思」は、思いやり。「草」は草花ではなく、「言い草」のように行為、行動を意味します。つまり、その人の思いやりがそのまま行ないになったものなのです。

●思いやりのかたち
 佐久間会長は以前から江戸しぐさに注目し、訓示や訓話などで紹介してきました。江戸しぐさ語り部の会代表で、この道の第一人者である越川禮子先生をお招きして、教えていただきました。佐久間会長は長く小笠原流礼法の普及に尽力し、実践礼道・小笠原流の会長も務めています。小倉発の小笠原流は武家の礼法ですが、江戸しぐさは商家の作法。武士と商人の違いはあれど、ともに「思いやりのかたち」としては同じなのです。
 さて、具体的な江戸しぐさには、どんなものがあるでしょうか。いくつか紹介しましょう。まずは、江戸しぐさの代名詞ともなっている「傘かしげ」。これは、雨や雪の日に道ですれ違うとき、お互いに傘を外に向けること。雫(しずく)がかからないようにとの配慮です。
 「こぶし腰浮かせ」も有名です。乗合舟で後から乗ってきた客のために、先客たちが、こぶし分、腰を浮かせて詰め合せました。後の客は、そうした配慮に対して「かたじけない」とか「有り難うございます」と礼を述べてから座った。現代では、電車などの公共交通機関で求められるマナーです。若い者がシルバーシートに座って、お年寄りが乗ってくると寝たふりをするようでは、世も末ですね。
 また、「うかつあやまり」というのもあります。たとえば北九州周辺のJR車内で、若者が中年の男性の足を踏んだとします。中年が「こら、痛かろうが!」と怒鳴れば、若者も「電車が揺れたんやから、仕方なかろうが!」とやり返す。これでは必ず喧嘩になってしまいますね。
 では、足を踏まれたとき、どうするか。踏んだ方があやまるのは当然ですが、踏まれた方も「私も、うかつでした」と謝るのが江戸しぐさです。これなら絶対に角が立たず、トラブルになりようがありません。

●互助共生の精神
 そして、私が一番好きなのが「いなかっぺい」という言葉です。これは地方出身者という意味ではなく、相手の肩書きや貧富を聞いて急に態度を変える俗物的な人間をさします。井の中の蛙(井中っぺい)とされて、もっとも軽蔑されました。江戸の町人たちは差別を嫌った。もともと士農工商で社会の最下層に位置された商人たちは、せめて自分たちの世界の中では差別を生みたくないと考えたのかもしれません。
 越川先生によれば、江戸しぐさの根底には互助共生の精神があるといいます。人にして気持ちいい、してもらって気持ちいい、はたの目に気持ちいいもの、それが江戸しぐさなのです。

●講は互助会のルーツ
 そして、忘れてはならないのが「講」の存在です。江戸町方では一種の相互扶助会の「講」というものができあがっていました。これが江戸しぐさを実際に機能させていく土台となってきたのです。
 江戸の講は原則として、月に2回開かれました。そこでは、江戸を良い都にするためのさまざまな重要な問題を話し合い、メンバーを「講中」といいました。リーダー的存在は「講師」です。「講座」も「講義」も「講堂」も「講習会」もすべてこの講から生まれた言葉です。当時の子どもたちは寺子屋で「講とは世の中のこと」と教えられ、漢字では「世間」と書くと教わりました。
 さらに講では、「人間」と書いて「じんかん」と読みました。そこには「人間関係」の意味が込められていたのです。
 そして、この講こそが互助会のルーツなのです。まさに、サンレーという互助会のミッションは「良い人間関係づくりのお手伝いをする」であり、江戸しぐさの精神とまったく同じなのです。 
 「品格」や「しきたり」といった言葉がキーワードになり、『国家の品格』『女性の品格』や『日本人のしきたり』などがベストセラーの一位を独走する時代。その流れの中に「しぐさ」への注目もあります。
 すべては、当社の事業に直結するものであり、サンレーには大きな追い風が吹いていることを実感します。
 ぜひ、加賀しぐさや琉球しぐさも取り入れたオリジナルの「サンレーしぐさ」(讃礼思草)をつくって、良い人間関係づくりのお手伝いに励みましょう!

 しきたりで品格高め 人間(じんかん)の
   仲を良くする 讃禮思草(サンレーしぐさ)  庸軒