第8回
一条真也
『百年読書会』重松清編著(朝日新書)

 

 本書は、「朝日新聞」紙上に連載された読書会の記録です。
 作家の重松清氏が選んだ12の名作を、12歳から97歳までの読者が感想を寄せ合いました。応募総数は13,000通におよんだそうです。 
 重松氏が選んだ名作は、日本文学を代表する以下の12作品でした。 太宰治「斜陽」、深沢七郎「楢山節考」、向田邦子「あ・うん」、夏目漱石「坊ちゃん」、大岡昇平「俘虜記」、幸田文「おとうと」、松本清張「砂の器」、内田百閒「ノラや」、宮沢賢治「銀河鉄道の夜」、川端康成「雪国」、開高健「オーパ!」、三島由紀夫「金閣寺」。
 本書の冒頭で重松氏は、「名作とは、世代を超えて読み継がれると同時に、一人の人生の中で何度でも出会えるもの。当読書会に冠した『百年』は『長いお付き合い』という思いをこめた数字です」と述べています。
 最後には、作家冥利に尽きるようなエピソードが紹介されていました。 「〈92歳で亡くなった夫が、最後の入院で『坊ちゃん』を読みたいと言い出し、もうハードカバーを持つ力はなかったので、文庫本を持って行った。夫は『坊ちゃん』を読み終わったあとはもうなにも読まず、2週間後に静かに逝った〉」
 坊ちゃんが、この話を知ったら、おそらく口を「へ」の字に曲げて、ハナをすすることでしょう。どうやら重松氏は、作者の漱石のことをうらやましく思っているようです。でも、重松氏の書いた『きみの友だち』や『その日の前に』などは百年後も残る名作だと思います。あなたの小説を人生の最後に読みたいという人は絶対にいますよ、重松さん!