第3回
一条真也
『さとしわかるか』福島令子著(朝日新聞出版)

 

 わたしが心の底から感動した素晴らしい本をご紹介します。

 著者は、東京大学教授の福島智氏の母親です。福島智教授は9歳で失明し、18歳で失聴した方です。いわゆる「盲ろう者」と呼ばれる障害者です。あのヘレン・ケラーと同じです。想像を絶するハンディを背負いながら、智少年は点字で多くの本を読んで勉強し、ついには東大教授になりました。そして、その傍らには、いつも母がいました。

 本書を読んで、まず痛感するのは、何事も前向きにとらえるポジティブ思考の大切さです。福島親子にはそれがありました。人間が生きていくうえで、ポジティブ思考がいかに必要かがよくわかります。

 著者は、盲ろう者である息子のために、ある日、「指点字」という途方もない方法を考えつきました。智少年の指に点字の組み合わせでタッチし、「さとしわかるか」と伝えると、智少年は「ああ分かるで」と答えました。

 かのヘレン・ケラーがサリヴァン先生との出会いによって「ウォーター」という言葉を手の平で学ぶ感動的な場面はよく知られています。著者と智少年が指で会話した瞬間は、ヘレン・ケラーの「ウォーター」に匹敵する重要な瞬間でした。「世界初」の指点字が交わされた瞬間だからです。

 こんな物凄い発明までも可能にしてしまう母の愛の強さ!自然界において、ヒトの赤ちゃんが「最弱」なら、ヒトの母親は「最強」なのではないでしょうか。そのことを、わたしは本書で再確認しました。

 盲ろう者である福島智は、大いなる母の愛によって、東大教授にまで上りつめ、多くの人々に勇気を与えたのです。