第1回
一条真也
『サヨナライツカ』辻仁成(幻冬舎文庫)

 

 これから、みなさんの心にエネルギーを与える本を毎月ご紹介したいと思います。記念すべき第1回目は、『サヨナライツカ』。

 わたしは、著者の小説をまったく読んだことがなく、この作品も、じつは映画を先に観ました。著者の妻でもある中山美穂が主演していたからです。わたしは、実は昔からミポリンのファンなのです。

 久々にスクリーンで再会した彼女は、相変わらず美しかった。でも、ストーリーはやや陳腐というか、「こんな女がいたらラッキーだよね」という男目線の作品かなあという印象を持ちました。

 小説を読んでみると、中山美穂が演じた沓子の人生がしっかり描かれており、映画では腑に落ちなかったことも納得できました。前半はひたすら官能的で、後半はひたすらプラトニックであるという不思議な小説ですが、つまるところ哀しい純愛の物語です。

 深く愛し合いながらも別れ、その後の人生でも一、二度しか再会できなかったにもかかわらず、最期の別れで沓子が主人公の豊に言います。

「こうして、最後にあなたを目の前にしていると、まるであなたと私はあの時、別れないで、その後結婚をしてずっと伴侶として生きてきたような感じがする。あなたが私の夫だったように思う。あれからずっと一緒にここで暮らしていたような気がする。苦しくて、寂しい人生なんか生きなくて、幸福で楽しい日々を生きてきたような気がする」

 この一文を読んで、わたしは泣きました。これは究極の遠距離恋愛ですね。「ヒトを愛する」ことの意味を考えさせられる一冊です。