2013
01
株式会社サンレー

代表取締役社長

佐久間 庸和

「サムシング・グレートを感じ

 心からの祈りを捧げよう!」

村上和雄先生との出会い

 昨年11月、東京のホテルオークラ「平安の間」で二日間にわたり、「ダライ・ラマ法王と科学者の対話~日本からの発信」という画期的なイベントが開催されました。
 わたしは、東京大学医学部の矢作直樹教授の招待で参加し、仏教と現代科学の最先端の話をたっぷり聴いてきました。日頃から尊敬しているノーベル平和賞受賞者のダライ・ラマ法王にも親しく接していただき、二度もわたしと握手をして下さいました。忘れられない思い出となりました。
 そのイベントの実行委員長を務められたのが、筑波大学名誉教授の村上和雄先生です。言わずと知れた日本を代表する科学者で、遺伝子研究の第一人者です。1983年には高血圧の黒幕である酵素「レニン」の遺伝子解読に成功し、世界的な注目を集めました。その後ずっと、村上先生は「ノーベル賞に最も近い日本科学者」と呼ばれてきました。 
 わたしは、その村上先生とイベントのレセプション・パーティーでお会いし、いろいろとお話をさせていただきました。

サムシング・グレートとは何か

 村上先生は、何よりも「サムシング・グレート」という言葉の生みの親として有名です。
  「サムシング・グレート」とは「神」や「仏」や「天」などと呼ばれる人間の世界を超えた偉大な存在です。
 この宇宙に一個の生命細胞が偶然に生まれる確立は、宝くじを買って1億円が100万回連続で当たるくらい奇跡的なことだそうです。その細胞を、わたしたち人間は一人につき60兆個も持っています。
 さらに、ヒトの遺伝子暗号は、約32億の科学の文字で書かれています。これは本にすると、1ページ1,000字で、1,000ページある大百科事典にして、計3,200冊分にもなります。
 そんな遺伝子暗号を書いたのは誰か。その正体を、アインシュタインは「宇宙の真理」といい、マザー・テレサは「サムシング・ビューティフル(美しい何ものか)」と呼びました。それを村上先生は「偉大なる何ものか」という意味で、「サムシング・グレート」と名づけたわけです。素晴らしい言葉ですね!

感謝の「ひらがな言葉」を使おう

 村上先生によれば、人間とチンパンジーの間にはわずか3.9%の遺伝子情報の差しか存在しないそうです。しかし、その些少な差にはサムシング・グレートの思いが入っています。「他の動物にはできない仕事をしてくれ」という使命を人間に与えたのです。だから、サムシング・グレートは人間だけにかなりの心の自由、考える力を授けました。そのことを忘れてはいけないと、村上先生は力説されました。  そして、人間がサムシング・グレートと心を通わせる方法とは何か。それは、まず感謝することです。
 日本語には「ありがとう」「おかげさま」「いただきます」「ごちそうさま」「もったいない」といったひらがな言葉がありますが、これらはいずれも感謝の気持ちを表す言葉です。これほど、感謝語のバリエーションが多いのは日本語だけです。日本人は、もともと感謝する国民性を持っているのかもしれません。わたしたちも、ぜひ日頃から感謝の「ひらがな言葉」をたくさん使いたいものです。

人事を尽くして天命を待つ

 そして、感謝とともに大切なのがサムシング・グレートに対して祈るということです。
 よく「苦しいときの神頼み」といいますが、あまり良くない意味で使われるように思います。しかし、ある意味で最も人間的で最も自然な心の行為ではないでしょうか。
 祈りの対象は太陽でも神でも仏でもよいのです。人が不可知な力について感じるようになれば、人生そのものに必ず大きな展開がもたらされてくるものなのです。
  「歌聖」と呼ばれた西行法師は、伊勢神宮を参拝したときに「なにごとの おはしますかはしらねども かたじけなさになみだこぼるる」という有名な歌を詠んでいますが、その正体はわからなくても畏敬の念を抱いて祈ることが大切なのです。
 もちろん、あくまで「人事を尽くして天命を待つ」が基本です。かつて、アメリカが月に向けてアポロを打ち上げた際、あらゆる準備、点検をすべて終え、残るは発射のボタンを押すのみという時に、その責任者は「あとは祈るだけだ」とつぶやいたといいます。これこそ、人事を尽くして天命を待つということではないでしょうか。

サムシング・グレートの出番

 人が「もう、これ以上は無理だ」というぐらいまでベストを尽くしたとき、最後にはサムシング・グレートが力を貸してくれるように思います。
 佐久間会長も「オリンピックの金メダリストの多くに、サムシング・グレートのサポートを感じる」と述べていますが、まったく同感です。あの山下泰裕氏が足の怪我にもかかわらずロス五輪で金メダルを取得したとき、あのイチロー選手が不調だったWBCで最後の最後に勝利のヒットを放ち、「野球の神様が降りてきた」とコメントしたときにもサムシング・グレートの存在を感じました。
 今年のサンレーグループは、売上・利益ともに大きな目標を掲げています。それを達成することは容易ではないと思います。しかし、各人がそれぞれの持ち場で最善を尽くし、「もう、これ以上は無理だ」という極限状況に至ったとき、最後にはサムシング・グレートがサンレーを助けてくれるかもしれません。
 サムシング・グレートとは、宇宙の不可思議な生命力としての「産霊(むすび)」、すなわち「サンレー」の別名でもあるのですから。

 なにごとのおはしますかは知らねども
       人事を尽くし天命を待て  庸軒