第13回
一条真也
「正当な利益を取るのは商人の道」石田梅岩

 

 言葉は、人生をも変えうる力を持っています。今回の名言は、石門心学を開いた石田梅岩の言葉です。
 梅岩は商人道徳を確立した人物として知られており、「正当な利益を取るのは商人の道である。利益を取らないのは商人の道ではない」という言葉を残しています。利と義、つまり経済と道徳というものは両立する、と多くの先人たちが訴えてきました。

 アリストテレスは「すべての商業は罪悪である」と言ったそうですが、商行為を詐欺の一種と見なすのは、古今東西を問わず、はるかに遠い昔からつい最近まで、あらゆるところに連綿と続いてきた考えでした。

 しかし、かの『国富論』の著者であり、近代経済学の生みの親でもあるアダム・スミスは違いました。スミスは著書『道徳感情論』を著し、「道徳と経済は両立すべきものである」と死ぬまで信じ続けていたといいます。

 日本では、江戸時代に石田梅岩が現れて、「石門心学」を開きました。その集大成というべき主著『都鄙問答』には、ある人が「商人には貪欲の者が多く、利を貪ることを生業とする、これは詐欺にあらずや」と質問し、梅岩が答える場面が出てきます。

 梅岩は言います。商売の利益は、武士の俸禄に等しく、正当な利を得るのが商人の道である。これらを詐欺というなら売買はできず、買う人は物に事欠いて、売る人は生活していけない。もし商人がみな農工を業とするなら、金銭を流通させる者がいなくなり、世の人々はみな困ってしまう。

 士農工商の四民、いずれが欠けても、天下というものは成り立たない。商人の売買は天下のためなのだ。商人の利益は武士の俸禄、工人の作料、農民の年貢米を納めた残りの取り分とまったく変わらない。それをあなたは、売買の利ばかりを、欲心にて道なしと言い、商人を憎んで断絶しようとしている。なぜ、商人ばかりを賤しみ嫌うのか。日本においても中国においても、売買において利を得るのは、天下の定法である。定法の利を得て職分に努めれば、自然と社会の役に立つのである。

 それなのに、武士の士農工の収入については何も言わず、商人が収入を得るのを欲心と言い、道を知らない者というのはいかなることか。石門心学の教えは、商人には道があることを教えるものである。

 このように、現代から見ても梅岩の主張は見事なほどに正論です。そして、当時ではきわめて革新的な「利」の哲学でした。