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一条真也
「『リトルプリンス』からのメッセージ」

 

 こんにちは、一条真也です。
 全国公開中の映画『リトルプリンス 星の王子さまと私』を観ました。
 1943年に出版されて以来、270以上の言語・方言に訳され、1億4500万部以上を売り上げたサン=テグジュペリ不朽の名作『星の王子さま』が初めてアニメ化され、スクリーンに甦(よみがえ)りました。

■映画から感じた2つのテーマ

 レベルの高い学校を目指し勉強漬けの日々を過ごす少女と、若いころ、不時着した砂漠で出会った星の王子さまとの思い出を語る老飛行士の交流を、CGアニメとストップモーションアニメを駆使して描いた作品です。
 この映画を観て、わたしが感じたことが主に2つあります。1つは、この映画は「隣人」をテーマにした映画であるということです。主人公の孤独な少女は、隣人である老飛行士と心の交流をします。そして、老飛行士が孤独死しそうな状況の中で、彼の命を救います。
 わたしが社長を務める会社は、孤独死を防ぐために「隣人祭り」を行っています。その回数は、今や年間600回以上にも及んでいます。そして、その「隣人祭り」は、『星の王子さま』を書いたサン=テグジュペリの祖国フランスで始まったのでした。
 また、この映画は「死者」への接し方をテーマにした映画でもあります。ネタバレにならないように注意して書くと、王子さまがかつて愛したバラのもとへ戻ってみると、バラはすでに枯れていました。王子さまの愛する相手は死んでしまっていたのです。しかし、王子さまは「わすれない」「おぼえておく」ことによって、愛する者は死なないといいます。そして、それこそがメーンテーマである「本当に大切なものは目には見えない」に通じるというのです。

■「死者」とともに生きている

 わたしたちは、死者とともに生きています。生者は、けっして死者のことを忘れてはなりません。死者を忘れて、生者の幸福などありえません。某宗教学者は「生きている人が死んでいる人に縛られるのっておかしいと思いませんか?」と発言しました。わたしは、彼の発言のほうがおかしいと思いました。なぜなら、生きている人間は死者から縛られるのではなく、逆に死者から支えられているからです。今の世の中、生きている人は、亡くなった人のことを忘れすぎています。死者を想(おも)うことによって、死者は死者ではなくなります。想う人の心の中で再び生を得るのです。
 わたしは、かつて『涙は世界で一番小さな海』(三五館)という本を書きました。そこで、『人魚姫』『マッチ売りの少女』『青い鳥』『銀河鉄道の夜』『星の王子さま』の5つの物語は、じつは1つにつながっていたと述べました。ファンタジーの世界にアンデルセンは初めて「死」を持ち込みました。メーテルリンクや賢治は「死後」を持ち込みました。そして、サン=テグジュペリは死後の「再会」を持ち込んだのです。一度、関係をもち、つながった人間同士は、たとえ死が2人を分かつことがあろうとも、必ず再会できるのだという希望が、そして祈りが、この物語には込められています。わたしたちは、大切な人との再会の日までこの砂漠のような社会で生きてゆかなくてはなりません。ならば、砂漠に水をやり、きれいなバラを咲かせようではありませんか!
 水がなくても大丈夫です。わたしたちが涙を流せばいいのです。悲しいとき、寂しいとき、辛いとき、他人の不幸に共感して同情したとき、感動したとき、そして心の底からの喜びを感じたとき、大いに涙を流せばいいのです。映画の主人公の少女も最後に涙を流しました。最初は忌むべき隣人でしかなかった老飛行士に馴染(なじ)んでしまったがゆえに涙を流しました。キツネも王子さまに馴染んでしまったために別れのときに涙を流しました。その涙というものは、アンデルセンがいったように「世界で一番小さな海」なのです。わたしたちは、小さな海をつくることができるのです。そして、その小さな海は大きな海につながって、人類の心も深海でつながります。たとえ人類が、宗教や民族や国家によって、その心を分断されていても、いつかは深海において混ざり合うのです。

■世界に「人間関係の豊かさ」という大輪を

 かつて世界中に恐怖を与えたナチスをサン=テグジュペリは批判しました。
 いま、ナチスに代わって、イスラム国が世界中に恐怖を与えています。そして、イスラム国はサン=テグジュペリの祖国であるフランスの首都パリをテロ攻撃しました。フランスは国家として、イスラム国が事実上統治するシリアに対して報復の空爆を行いました。一方、パリの市民たちは街中に花とロウソクで飾って死者を追悼しました。武器ではなく花とロウソクを持ち出したところに、パリ市民の成熟度を感じました。
 ハートフル・ファンタジーの作家たちは「死」や「死後」や「再会」を描いて、わたしたちの心の不安をやさしく溶かしてくれます。それと同時に、生きているときにはよい人間関係をつくることの大切さを説いているのではないでしょうか。誰かに共感する。誰かに同情する。誰かに気をくばる。そして、誰かを愛する......思いやりによって、人間関係の豊かさという大輪のバラをこの世界に咲かせようではありませんか!