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一条真也
「古事記・論語・般若心経」

 

 『はじめての「論語」』(三冬社)と『般若心経 自由訳』(現代書林)を続けて上梓した。『論語』も『般若心経』も、多くの日本人から「こころの書」として親しまれている。
 もう1つ、日本人には大切な「こころの書」がある。『古事記』である。このコラムでも紹介したが、今年1月、わたしが経営する会社では「古事記」の舞台を上演したが、その原作は宗教哲学者の鎌田東二氏による『超訳 古事記』(ミシマ社)だった。
 ブッダが開いた仏教、孔子が開いた儒教は、日本人の「こころ」に大きな影響を与えた。加えて、日本古来の信仰にもとづく神道の存在がある。
 わたしは多くの著書で、「日本人の精神文化は神道・儒教・仏教の三本柱から成り立っている」と繰り返し述べた。神儒仏が混ざり合っているところが日本人の「こころ」の最大の特徴であると言えるだろう。
 それをプロデュースした人物こそ、かの聖徳太子であった。宗教編集者としての太子は、自然と人間の循環調停を神道に担わせ、儒教によって社会制度の調停をはかり、仏教によって人心の内的不安を解消した。
 すなわち心の部分を仏教で、社会の部分を儒教で、自然の部分を神道が、それぞれ平和分担する「和」の宗教国家構想を聖徳太子は説いた。
 その三宗教の聖典こそ、『古事記』『論語』『般若心経』なのである。最近、それらが日本人の「過去」「現在」「未来」についての書でもあるように思えてならない。すなわち、
 『古事記』とは、わたしたちが、どこから来たのかを明らかにする書。
 『論語』とは、わたしたちが、どのように生きるべきかを説く書。
 『般若心経』とは、わたしたちが、死んだらどこへ行くかを示す書。
  この考えを知った鎌田東二氏は、
 「『古事記』とは、日本人の来し方行く末を明示する書。『論語』とは、人間修養を通して世界平和実現を指南する書。『般若心経』とは、迷妄執着を離れて実相世界を往来する空身心顕現の書」と述べた。なるほど。