2010
11
株式会社サンレー

代表取締役社長

佐久間 庸和

「観光力を身につけ、

 他人が発する光を見つけよう!」

「観光」というコンセプト

 今月は「観光力」についてお話したいと思います。おそらく、みなさんは、観光力とは観光地における集客力とか人気のことだと思われるでしょう。それは観光される側の問題ですね。しかし、わたしがお話しようとしている観光力は、観光する側の問題です。
 佐久間会長が(社)日本観光旅館連盟や(社)北九州観光協会の会長を歴任してきたことから、会長の訓話などには「観光」に関するものが多いですね。わが社の社員の間でも、観光に対する意識は高いように思います。
 「観光」とは、もともと古代中国の書物である『書経』に出てくる「観國光」という言葉に由来します。「國光」とは、その地域の「より良き文物」や「より良き礼節」と「住み良さ」を指します。
 すなわち観光とは、日常から離れた異なる景色、風景、街並みなどに対するまなざしに他なりません。どんな土地にも、その土地なりの光り輝く魅力があります。そして、観光とは文字通り、その光を観ることなのです。

その人の良いところを見る

 わたしは、土地の光を観る精神は人間の光を観る精神にもつながるのではないかと思います。つまり、その人の良いところを観るということです。
 わたしの仲人でもあった元・東急エージェンシー社長の前野徹さんは、いつも「美点凝視」ということをおっしゃっていました。
 「美点凝視」とは、相手の短所ではなく、長所を見ることです。そして、それを相手に指摘してあげることです。 つまり、相手の優れた部分を取り出し、魅力として自覚させ、さらには勇気づけるというものなのです。
 欠点ばかり指摘されていたのでは、誰でも嫌気がさして、人間関係も良くならないことは言うまでもありません。
 ただ「美点凝視」は人間関係を良くするのみならず、「強み」の思想に通じて、マネジメントにおいても絶大な力を発揮します。

「強み」を生かすということ

 もともと「強み」の思想は、ピーター・ドラッカーがその生涯にわたって訴えてきたものです。ドラッカーは、「わが社が強みとするものは何か、うまくやれるものは何か、いかなる強みが競争力になっているか、何にそれを使うかを問わなければならない」と述べていますが、わたしは2001年に社長に就任したとき、まず、わが社の強みについて徹底的に考え抜きました。
 そして、過去にTQC活動の導入、ISO9001の取得、プライバシーマーク取得などがいずれも業界初であり、厚生労働省認定である葬祭ディレクター技能審査制度の試験に合格した一級葬祭ディレクター数が全国でトップクラスの実績にあることを知り、教育や資格を取得するといった知的方面における強みを発見。これをさらに強化する方針を打ち出した結果、わが社の姿勢がお客様にも評価され、業績も向上したのです。
 わたしは、わが社の光を見つけて、それをさらに輝かせたのではないかと思っています。これも「観光力」です。

リーダーに求められる観光力

 会社のみならず、わたし個人の生き方にも「自らの強みに集中せよ」というドラッカーの言葉をいつも頭に置いています。
 さらには、他者の放つ光に敏感にならなければなりません。それは、リーダーシップに通じるものです。リーダーシップというと経営者だけが持っていればよいと思ってはいませんか。しかし、社長のわたしだけでなく、わが社で働くすべての人に必要なものです。
 リーダーシップの本質とは、意義あるビジネスを生み出すこと、さらに言えば、意義ある人生を生み出すことにあります。過去と他人は変えられませんが、未来と自分は変えられます。変えられるのは自分だけであり、自分だけが自分を変えられるのです。
 自分の一番よいところを引き出すこと、自分の「強み」を生かすこと、自分の周囲に人々がのびのびと成長できるような環境をつくってあげること、これが真のリーダーシップではないでしょうか。
 そしてドラッカーは、リーダーシップについて語るにあたり、何よりも「真摯さ」の重要性を説きました。

何事も陽にとらえる

 上司は部下の「強み」を生かさなければなりません。それがマネジメントということです。しかし、部下もまた上司をマネジメントするのです。そしてその方法とは、上司の「強み」を生かすことです。
 お互いに「強み」を生かしあうことからくる信頼関係も、その前提に真摯さというものが欠かせません。逆に言うなら、「真摯さ」さえあれば、相手の「強み」を生かすことができる、つまり相手の「光」を観ることができるのです。
 『論語』にも「君子は人の美を成す。人の悪を成さず。小人は是れに反す」という言葉があります。「君子は人の美点を伸ばし、悪い点は出さないようにするものだ。小人はその反対だ」という意味です。ドラッカーのみならず、孔子もまた「観光力」の必要性を知っていたのでしょう。
 「光」を観るべきは、上司や部下といった社内の人間だけではありません。隣人もそうですし、何よりも、お客様の放たれる光を観なければなりません。
 新郎新婦の幸せな輝き、故人の歩まれた人生の輝き、それらの光を観る。そして、その輝きをさらに増すような冠婚葬祭のお手伝いをする。そこから感動のセレモニーが生まれます。それは、そのまま「何事も陽にとらえる」というサンレー思想に通じるものなのです。

 その土地の放つ光を観るごとく
     人の光も観たきものなり  庸軒