2012
株式会社サンレー

代表取締役社長

佐久間 庸和

PHP研究所編

『トップが綴る さあ、前に進もう!〜私が励まされたひと言』より

私を支えた『論語』の言葉

 

 私は、38歳で社長に就任しました。わが社は、ホテルや冠婚葬祭などのサービス業を営む会社です。無我夢中で社長業に取り組んできましたが、当時の私はどうにも割り切れない思いを抱えていました。
 お客様に最高のサービスを提供するというホスピタリティ・マインドの追求と、企業としての利益追求の両立に悩んでいたのです。悶々とするうちに、すぐ39歳になりました。40歳の大台まであと一年です。40歳といえば「不惑」ですが、迷ってばかりいる私は、「不惑」の出典が『論語』であることを思い出し、『論語』を40回通読することを自身に課しました。すると、不思議なことに本当に迷わなくなりました。
 一般的に企業とは、利益を追求する存在であるとされています。では、利益とは何か。
「利」という言葉は『論語』にも登場します。
「利によりて行えば怨(うら)み多し」(行動がつねに利益と結びついている人間は、人の恨みを買うばかりである)
「君子は義に喩(さと)り、小人は利に喩る」(君子はまっさきに義を考えるが、小人はまっさきに利を考える)
 孔子は、「完成された人間とは」と問われて、「目の前に利益がぶら下がっていても義を踏みはずさない」ことを、その条件の一つに挙げています。どうも、「利」と「義」はセットで語られてきたようです。そう、経済と道徳は両立するのです。
 多くの賢人たちもそのように訴えてきました。『国富論』を書いたアダム・スミスも、『道徳感情論』という著書でそのことを訴えています。日本では、石門心学開祖の石田梅岩や『論語と算盤』いう言葉で有名な渋沢栄一がいました。
 やはり、「利の元は義」であると、私は確信します。自分の仕事に対する社会的責任を感じ、社会的必要性を信じることができれば、あとはどうやってその仕事を効率的にやるかを考え、利益を出せばよい。そのように悟ったら、迷いはきれいに消えました。